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参考資料2018.11.20

定款認証についての解説

参考資料2018.11.20

*以下、日本公証人連合会による解説をベースとする。

定款認証の意義等

1.定款とは何ですか。なぜ,公証人の認証が必要なのですか。

(1) 法人の目的,内部組織,活動に関する根本規則又はこれを記載した書面若しくは電磁的記録に記録したものを定款といいます。とくに電磁的記録に記録したものを電子定款といいます。会社,公益法人,各種協同組合等社団法人では,設立に当たって定款を作成する必要があります。定款は,発起人,社員,設立者等が書面,又は電磁的記録に記録する方法で作成し,書面によるときは(公益法人等一部のものを除き)発起人らがこれに署名又は記名押印しなければなりません(会社法(以下,単に「会」といいます。)26条1項,575条1項)。電子定款には電子署名を行います。

(2) 認証とは,一定の行為が正当な手続によりされたことを公の機関が証明することです。定款の認証は,私署証書の認証と同様,公証人の権限とされており,株式会社,有限責任中間法人などの定款については,公証人の認証を受けなければ効力を有しないものとされています。 認証は,書面による定款の場合には,発起人や社員が,公証人の面前で定款の署名又は記名押印が自己のものであることを自認し(あるいは署名又は記名押印をし),その旨を記載することにより行います。電子定款の場合には,その面前で,発起人や社員をして電子定款に電子署名をしたことを自認し,その旨を内容とする情報を電子定款に電磁的方式により付してします。この手続は主に行政書士が代理人として行います。これによって定款上に作成者が署名若しくは記名押印した事実又は電子定款に作成者が電子署名をした事実が確実に存在することが公証されます。このような認証が必要とされるのは,定款の作成とその内容の明確さを確保し,後日の紛争と不正行為を防止するためです。

2.定款の認証を要するのは,どんな場合ですか。

(1)公証人の認証を要するのは,設立に際して発起人又は社員が作成する定款(「原始定款」といわれれます。)です。会社法30条1項により規定され,同規定は定款の認証を必要とする各法律に準用されています。

(2)公正証書をもって定款を作成することも差し支えないが,その場合には認証は必要ありません。公正証書をもって定款を作成する場合の管轄については,公証人法62条の2の規定が類推適用されるので,会社の本店の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の所属公証人において作成することが必要です。

(3)定款の認証を受けた後,創立総会において本店所在地を他の法務局又は地方法務局の管内に変更したときは,変更後の定款について改めて変更後の本店所在地の管内の公証人に認証を受けなければならないとされています(当該会社の設立登記は受理されません。)。この場合,新たに公証人の認証を要することになるので,新しく定款を作成することになります。

3.定款の内容に変更・訂正がされた場合,どうすればよいのですか。

(1)(a)改正前商法時代においては,実務上,第三者が利害関係を持つに至るまで(発起設立の場合においては,取締役の調査手続の終了まで,募集設立の場合においては,株主の募集に着手するまで)は,発起人又は社員が任意に定款の内容を変更でき,この場合には,変更定款を作成し,公証人の認証を受けるものとされていました。他方,募集設立の場合には創立総会において,定款を変更することができ,この場合には,議事録により明白であり,認証は必要ありませんでした。
(b) 会社成立後(設立登記後)においては,募集設立,発起設立を問わず,株主総会において,定款を変更することができ,この場合には認証は必要ありません(このことは,改正前商法,会社法も同様です。)。

(2)ところで,会社法30条2項は,公証人の認証を受けた定款について,同項に規定する次の場合には,改めて認証を受けることなく,変更することができる旨定めています。
(a) 裁判所が,変態設立事項(変態設立事項については,設問72参照)について検査役の報告を受けた結果,不当と認め変更決定をした場合(会30条2項,33条7項)
(b) 発起人が,裁判所の上記の変更決定確定後一週間以内に,発起人全員の同意を得て,変更された事項についての定款の定めを廃止する場合(会30条2項,33条9項)。ただし,設立時募集株式と引換えにする金銭の払込み期日又は期間を定めたときは,その期日又は期間の初日のうち最も早い日以後は定款変更できません(会95条)。
(c) 発起人が,株式会社設立時までに,発起人全員の同意によって発行可能株式総数の定めを設け,又は既に定款で定めている発行可能株式総数を変更するための変更定款(会30条2項,37条1項,2項)。ただし,設立時募集株式と引換えにする金銭の払込み期日又は期間を定めたときは,その期日又は期間の初日のうち最も早い日以後は定款変更できません(会95条)。

(3)前述のように,上記(2)の場合は,改めて認証を得ることなく定款を変更することができますが,上記の場合を除く場合については,前記(1)(a)の取扱は変わりはなく,前記の時期までに定款を変更した場合は,改めて変更した定款の認証を要するものと解されます(その場合の手数料については,設問5参照)。なお,募集設立における創立総会の決議により定款を変更する場合(会73条2項ないし4項,96条)は,議事録により明白であり,定款の認証を要しないことは,従前のとおりです。

(4)会社設立後の定款変更(会466条)は,変更された定款につき認証を受ける必要はありません。会社の合併あるいは組織変更に伴い作成される新定款についても同様です。

(5)なお,実務では,例えば会社の目的の記載を一部修正する場合,発起人の氏名の誤記を訂正する場合など,定款の内容の変更が軽微な場合には,先に認証した定款を事実上訂正し,初めからそのような定款を認証したものとして処理することもあります。しかし,発起人又は社員の交替のような場合には,定款の事実上の訂正で処理することは相当でなく,上記(1)(a)の定款変更手続によるか,これにより難いときは,新しく定款を作成する必要があります。

4.定款の認証は,どこの公証人でもできるのですか。

定款の認証に関する事務は,会社の本店の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の所属公証人が扱うこととされています(公証人法62条ノ2)。例えば,東京法務局所属公証人は,神奈川県や埼玉県に本店を置く会社等の定款の認証を扱うことはできません。これは,一般に公証人の職務執行できる区域は,その公証人の所属する法務局又は地方法務局の管轄区域による(公証人法17条)とされており,嘱託人又は代理人が公証人の役場へ出頭して嘱託する限り,どこに住所のある嘱託人の嘱託であろうと,またどこにある不動産に関する嘱託であろうと職務執行できることに対する例外です。
管轄区域外の公証人が認証した定款は無効であり,この定款を添付して設立登記申請があった場合には,改めて管轄区域内の公証人の認証を得た定款を添えて登記申請をさせるべきであるとされています(なお,定款の認証を受けた後,創立総会において本店所在地を他の法務局又は地方法務局の管内に変更した場合の取扱については,設問2参照)。

5.定款の認証に要する費用は,幾らぐらいかかりますか。

(1)定款認証の公証人手数料は,1件5万円です(手数料令35条)。
後記のとおり,認証の際,登記申請用の謄本を同時に請求するのが通常ですが,その手数料は,謄本1枚につき250円です(認証文についても同じです。公証人手数料令40条(以下「手数料令」といいます。))。定款に必要不可欠な部分(本体部分及び認証文)の枚数によって,手数料を算定すべきであるから,謄本の手数料の枚数計算(手数料令40条)では,定款の表紙(表・裏)は入りません。したがって,定款の表紙(表・裏)に標題等の記載,訂正印(捨て印)又は契印の押捺があっても,表紙を枚数に加えませんが,表紙に押捺された訂正印を使用して現実に訂正の記載が表紙にされている場合には,当該表紙を枚数に加えることになります。
全部で公証人役場に約5万2千円支払うことが通常です。

(2)収入印紙は,4万円です(印紙税法別表第一,六)。印紙は,会社(株式会社,相互会社)の原始定款のうちの公証人保存原本に限り,貼付を要します。特定目的会社の定款には,印紙の貼付をする必要ありません(注)。電子定款については,印紙の貼付は必要ありません。

(3)弁護士法人等その他の社団法人の定款や有限責任中間法人,信用金庫の定款については,認証の手数料は同一額(5万円)ですが(手数料令35条),収入印紙の貼付をする必要はありません(前記別表一,六など)。

(4)変更定款の場合,その認証の手数料については,手数料令に規定がなく,従来から見解が分かれています。法律行為の補充又は更正の場合の手数料に準じて半額の2万5000円とする見解(半額説。手数料令24条1項)が有力です。変更定款に,収入印紙の貼付は不要です。 当事務所嘱託の公証人役場でも半額の取扱いです。

(5)株式会社を設立するのに最低限必要な費用は,上記の①認証手数料5万円,②謄本手数料約2千円,③印紙代4万円(電子定款の場合不用),④募集設立の場合には払込保管証明書が必要。その発行手数料は出資金が1000万円の場合には概ね2万5000円,⑤設立登記に際して必要な登録免許税が,出資金の額の1000分の7に相当する額(ただし,それが15万円に満たないときは15万円(通常15万円),⑥その他,代表者印作成代,印鑑登録証明書代等が必要です。最低でも約21万円位の費用が必要です。行政書士等に依頼した場合、加えて報酬が必要です。

(注) 特定目的会社は,資産の流動化に関する法律(平成10年法律第105号)により認められた会社であり,商号に特定目的会社という文字を用いなければならないとされています。特定目的会社の定款は,印紙税の課税文書とされていません。

書面による定款の認証嘱託の手続等

6.定款認証には,どのような書類が必要ですか。

(1)認証の嘱託は,定款(原本)2通を公証人に提出しなければなりません(公証人法62条ノ3第1項)。嘱託人は,全員が同時に公証役場に出頭して認証を受けることを要し,各自が時を異にして各別に認証を受けることはできません。定款2通を要するのは,公証人が認証した上,1通は公証人が役場保存用原本として自ら保管し,1通を会社保存用原本として嘱託人に還付するためです(公証人法62条ノ3第3項)。認証を求めることができるのはこの2通のみです。
もっとも,実務では,設立登記の申請の際に,認証を得た謄本1通が必要となるので,この謄本用を含め定款3通を提出するのが通常です。
定款原本には,作成者全員が,署名又は記名押印した上(設問1参照),原則として,各葉ごとに契印する必要があります。もっとも,袋綴じの場合は表紙等の綴目に契印すれば足ります。有限責任中間法人の定款のように,社員多数の場合等で,全員が綴目等に契印できないときは余白部分に押印すれば足り,また,全員の押印が困難な場合は,一部の社員の契印のみで足ります。謄本用の定款には署名又は記名押印を要しませんが,通常の場合は,提出する3通とも,全員が,署名又は記名押印していることが多く,1通が押印等の不備の場合に対応しやすいので,このようにするのが良いと思われます。
定款の文字に訂正(挿入,削除)のあるときは,その字数及び箇所を記載して作成者全員が訂正印を押捺する必要があります(公証人法62条ノ3第4項,60条,38条)。記載場所は,各訂正箇所の欄外でもよいし,全部まとめて定款末尾の余白にしてもかまいません。往々にして,訂正の必要が生ずることがあり,代理人による認証などの場合には対応しにくいので,訂正のための捨印が押されていると訂正が容易になります。
電子定款認証の場合、電子署名を付した定款データをオンラインで指定公証人に送信して認証を受け、同一情報の証明を付した謄本の交付を受けます。通常、1通を会社保存、1通を登記の添付書類とします。行政書士に委任する場合は、委任状に発起人の捨印を押しておくことにより訂正を容易にします。

(2)発起人の印鑑登録証明書
発起人が人違いでないことの証明をすることが必要であり,そのために,公証人が嘱託人(発起人)の氏名を知りかつこれと面識がある場合を除き,印鑑登録証明書の提出その他これに準ずべき確実な方法(例えば運転免許証や旅券の提示)により証明する必要があります(公証人法62条ノ3第4項,60条,28条1,2項)。印鑑登録証明書以外のものの提示により人違いでないことを証明することも可能ですが,印鑑登録証明書があれば,定款に記載された発起人の住所,氏名及び押印の正確性を確認することもできるので,実務上は印鑑登録証明書の提出によるのが通常です。なお,印鑑登録証明書は,発行後3か月以内のものに限られます。

(3)収入印紙
4万円の収入印紙を公証人保存用原本に貼付して消印します。消印は,発起人全員でする必要はなく,また,代理人でもできます。 電子定款の場合は不要です。

(4)代理人による嘱託の場合における委任状と代理人の印鑑登録証明書等
代理人による嘱託の場合は,発起人が記名押印(署名)した委任状とその印鑑登録証明書のほか,公証人が出頭した代理人の氏名を知りかつこれと面識がある場合を除き,人違いでないことを証明するため,代理人の印鑑登録証明書又は運転免許証若しくは旅券等確認資料の提出が必要です(公証人法62条ノ3第4項,60条,28条)。 行政書士が代理する場合は、身分証明書等を提示します。

(5)会社が発起人の場合においては,代表者の印鑑登録証明書のほかに会社の登記簿謄本
会社が発起人の場合には,発起人となることがその会社の目的の範囲内にあることを確認する必要があるので,代表者の印鑑登録証明書のほかに会社の登記簿謄本の提出が必要です。もっとも,この確認は,適宜の方法によってすべきものとされており,登記簿謄本に限らず,会社代表者の陳述書や事情聴取書の提出によってもまかなえないわけではありません。しかし,実務上は,登記簿謄本を提出させその会社の目的のうちに新会社の目的と同種の事業が掲げられていることを確認することによって処理しているのが通常です(会社の目的につき、設問17参照)。

7.外国人や外国会社は,発起人となれますか。その場合の必要書類は何ですか。

(1)外国人(自然人)
(a)外国人について発起人となることを制限した規定はなく,発起人となることができます。外国人の場合,その行為能力は本国法によりますが(法例3条1項),日本において法律行為をなした場合,本国法で能力を制限されていても,日本法で能力者である場合は,能力者とみなされるので(同条2項),結局,日本法で判断することになります。
(b)面前署名,面前自認の場合,外国人については,本人確認資料として,次のものが必要です。
① 当該外国人が外国人登録原票に登録されていれば,印鑑登録ができるので,印鑑登録証明書によることができます。
② その他にも,外国人登録証明書,運転免許証,旅券(パスポート),当該国の駐日領事による署名証明書も証明資料とすることができます。運転免許証や旅券等の公的機関の写真付証明書については,外国の機関により発行されたものでも,公的機関の発行したものであることが確認できれば,本人確認資料としてよいと思われます。
(c)代理自認や作成代理の場合,次のものが必要です。
代理人の本人確認資料については,上記の本人の場合と同様ですが,ほかに,代理権限を証明するものとして,委任状とその成立を証するものが必要となります。当該外国人が,上記(b)①のように,日本において印鑑登録していれば,委任状に登録印(実印)を押捺することにより,また,当該国が印鑑登録制度を採用している場合には,その登録印を押捺し,印鑑登録証明書により委任状の成立を証明することになります。当該国が,印鑑登録制度を採用していないときは,委任状は証明(サイン)によることとなり,委任状に当該国の領事若しくは公証人の認証を受けるか,当該国の領事等公的機関の署名(サイン)証明により委任状の真正を確認する必要があります。なお,署名(サイン)による場合には,割印又は捨て印欄には,末尾の署名(サイン)と同様の署名(サイン)又はイニシアルを書くこととなります。

(2)外国会社
(a)会社法823条及び民法36条の規定等からみて,外国会社も当然,会社の発起人になれるものと解されます。
(b)資格証明等については,外国法人がわが国に商業登記を有する場合(会817条,933条,936条)は,日本法人と同じですが,わが国に商業登記を有しない場合には,資格証明書については,次のいずれかの法人資格証明書の原本又は認証謄本を提出する必要があります。
① 本店所在国の権限ある官公署発行の証明書
② 本店所在国の権限ある公証人の証明書
(c)会社代表者の印鑑証明書に当たるものについては,本店所在国に類似の制度があればその証明書を提出し,それがないときには,当該代表者個人の署名(サイン)証明書などを提出するか,「当該個人が代表者に相違ない」旨の宣誓供述書を提出させるなど適宜の措置をとることになります。なお,署名(サイン)による場合には,割印又は捨て印欄には,末尾の署名(サイン)と同様の署名(サイン)又はイニシアルを書くこととなります。
(d)代理自認の場合には,概ね(1)(c)と同様となります。

8.行政書士による嘱託の場合における手続は,どのようにするのですか。

認証の嘱託は代理人である行政書士によってもすることができます。発起人は、行政書士が代理して嘱託する権限があることを証明する委任状を提出しなければなりません。この委任状は,委任者全員の印鑑証明書(外国人などの場合は署名証明書等、設問7参照)を提出し,その真正を証明する必要があります。

定款認証嘱託の委任状の記載例(株式会社の場合)
委 任 状
私は  甲  を代理人と定め,下記権限を委任する。

○○株式会社の定款について,各発起人の記名押印(署名)
をそれぞれ自認し,公証人の認証を嘱託する手続に関する一切の件
平成  年 月 日
○○株式会社
住所
発起人   乙    印
(以下略)

9.定款の閲覧請求,謄本請求をできるのは誰ですか。

嘱託人,その承継人又は利害関係人は,公証役場で保存する定款及びその付属書類の謄本の請求をし又はその閲覧を請求することができます(公証人法62条ノ5,60条ノ4,44条,51条ないし56条)。
手数料は,謄本の場合は,1枚につき250円(設問5参照),閲覧の場合は,1回につき200円です(手数料令40条,41条)。

株式会社の法規制

10.会社法上の大会社とは,どのような会社をいうのですか。 従前の中・小会社は,どうなりましたか。

(1)会社法は,大会社に関する特別規定を設けたが,小会社の概念を廃止しました。従来,大会社と小会社の定義を定めていた「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(昭和49年法律第22号,いわゆる商法特例法)は廃止され,大会社の定義は会社法の定めるところとなり,内容も多少改められました。 会社法の定める大会社とは,要旨次の要件のいずれかに該当する株式会社です(会2条6号)。
① 最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上であること
② 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であること
従前の定義では,会計年度途中で資本が5億円を上下すると直ちに大会社の要件に響き,煩雑であったものを改正したものと説明されています。また,会社法は大会社のみを定め,従前,商法特例法が定めていた小会社の定めを設けなかったので,必然的に,大会社と小会社のいずれにも属さない,いわゆる中会社の観念も消失し,株式会社は,大会社とそれ以外の会社の二種類になりました。

(2)大会社は,その活動の社会的影響に配慮し,特に適正な管理と法令の遵守(ガバナンスとコンプライアンス)の要求度が高いところから,会計監査人の設置義務(非公開会社と委員会設置会社を除く。会328条),業務の適正確保のための体制構築基本方針策定義務(会348条3項4号,同4項,362条5項)が法定されています。
全ての大会社は会計監査人の設置が義務付けられ,公開会社である大会社には,機関設計において,取締役会のほか監査役会叉は委員会の設置が必要的です。

11.発起設立と募集設立について,注意すべき点は何ですか。

(1)株式会社の設立は,会社法25条1項により二つの方法が定められており,その一つの発起設立は,会社の設立に際して発行する株式総数を発起人が引受け,発起人以外の者から株式を募集しないで会社を設立する方法であり(会26条から56条),他の一つの募集設立は,設立に際して発行する株式総数の一部を発起人が引受け,残りの株式は他から株主を募集して会社を設立する方法です(会26条から37条,39条,47条から103条)。なお,いずれの方法でも,発起人は1株以上設立時発行株式を引き受けることが必要です(会25条2項)。
一般的には,発起設立は,発起人だけで出資をまかなう比較的小規模な会社の設立に適しており,募集設立は,発起人だけで出資ができない場合など,比較的大規模な会社の設立に適していると言えます。

(2)発起設立と募集設立では,設立手続がかなり異なり,募集設立では,株主の募集や創立総会の手続を経なければならないなど,手続的に複雑です。
改正前商法では,理論上,発起設立の場合には,原始定款で最初の取締役と監査役とを定めることができると解され,実務に定着していましたが,会社法は,設立時取締役,設立時会計参与,設立時監査役及び設立時会計監査人について明文でこれを定めました(会38条3項)(設問52,73参照)。
募集設立では,創立総会において,設立時取締役,設立時会計参与,設立時監査役及び設立時会計監査人等を選任することになります(会88条)。
また,会社法でも,発起・募集設立ともに,設立の際の払い込みは払込取扱機関による必要がありますが,その払い込まれた金銭の額の証明のためには,募集設立では,改正前商法と同様に払込取扱機関による払込金保管証明が必要ですが,発起設立では,払込金を払い込んだことを証明するに足る預金通帳の写し等の任意の方法によることができるようになりました(会64条1項)。

定款の記載事項とその配列

12.株式会社の定款の絶対的記載事項について,どのような見直しが行われましたか。

(1)会社法が規定する定款の絶対的記載事項は,次のとおりです(会27条)。
①目的
②商号
③本店の所在地
④設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
⑤発起人の氏名又は名称及び住所
以上の事項の記載を欠く定款は無効です。

(2)改正前商法は,上記のほか,公告の方法,会社が発行する株式の総数,会社の設立に際して発行する株式の総数を絶対的記載事項としていたが,会社法はこれらの事項を絶対的記載事項から除いています。
(a) 会社法は,すべての会社の公告方法について,任意的記載事項とし,官報に掲載する方法,時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法,電子公告のいずれかを選択できるものとし(会939条1項),定款に公告方法の定めがない会社については,自動的に官報に掲載する方法によることとされました(同条4項)。
(b) 会社が発行する株式の総数(発行可能株式総数)については,定款作成時に定める必要はないものとし,設立中の株式引受け状況を見極めながら,設立登記申請時までに定款に定めればよいことになりました(会37条,98条)。
(c) 設立に際して発行する株式の総数(設立時発行株式総数)については,出資される財産の総額にかかわらず,設立時発行株式数が定まる改正前商法の規定は,設立手続を硬直化させるおそれがあるとして,絶対的記載事項から除き,会社の設立に際して出資される財産の価額又はその最低額を定めて定款に記載すべきであるとされました(会27条4号)。
(d) 確認株式会社では,法定解散事由の記載が絶対的記載事項とされていたが(中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律3条の19第1項),会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」といいます。)447条により該当条項が削除されたので,確認株式会社を設立することはできなくなりました(確認会社については,設問77参照)。

13.株式会社の定款の相対的記載事項には,どのようなものがありますか。

(1)相対的記載事項とは,絶対的記載事項と異なり,定款に記載(記録を含む。)がなくても直ちに定款の無効を招来しないが,記載がない以上その事項につき効力が認められない事項です。会社法は,法律の各条項に一応の定めがある事項について定款によりこれと異なる定めを置くことができる場合を,逐一その条項に明記しており,法律に「定款により別段の定めをすることができる」旨の規定がない以上,それと異なる定款の定めは認められません。そこで,会社法に「定款により別段の定めをすることができる」旨の定めがある事項が相対的記載事項ということになります。

(2)このような意味で法が承認し,定款自治に委ねた相対的記載事項は,相当広範囲,かつ,重要なものであり,そのうち主要なものを示せば,次のようなものがあります。
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定款認証についての解説
(定款認証の意義等)
*以下、日本公証人連合会による解説をベースとする。
①  変態設立事項(会28)
②  設立時取締役及び取締役選任についての累積投票廃除(会89条,342条)
③  株主名簿管理人(会123条)
④  譲渡制限株式の指定買取人の指定を株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)以外の者の権限とする定め(会140条5項)
⑤  相続人等に対する売渡請求(会174条)
⑥  単元株式数(会188条1項)
⑦  株券発行(会214条)
⑧  株主総会,取締役会及び監査役会招集通知期間短縮(会299条1項,368条1項,376条2項,392条1項)
⑨  取締役会,会計参与,監査役,監査役会,会計監査人及び委員会の設置(会326条2項)
⑩  取締役,会計参与,監査役,執行役及び会計監査人の責任免除(会426条)
⑪  社外取締役,会計参与,社外監査役及び会計監査人の責任限定契約(会427条)
⑫  取締役会設置会社における中間配当の定め(会454条5項)

14.株式会社の定款の任意的記載事項には,どのようなものがありますか。

定款の記載事項のうち,絶対的記載事項及び相対的記載事項以外の事項で,会社法その他の強行法規の規定等に違反しないものを任意的記載事項といいます(会社法29条に規定する「この法律の規定に違反しないもの」に該当します。)。任意的記載事項は,定款に定めた範囲で株主その他の内部の者を拘束し,その事項を変更するには,定款変更の手続が必要です。
任意的記載事項としては,例えば次の事項に関する規定があります。

(1)株式について
①  株主名簿の基準日(会124条)
②  株主名簿の名義書換手続(会133条,134条)
③  株券の再発行手続(会228条2項)

(2)株主総会について
①  定時株主総会の開催時期(会296条1項)
②  株主総会の議長(会315条)
③  議決権の代理行使(会310条)

(3)株主総会以外の機関について
①  取締役(会326条1項,331条4項),監査役,執行役(会402条1項)の員数
②  代表取締役(会349条3項),役付取締役(会長,社長,副社長,専務取締役,常務取締役等)
③  取締役会の招集権者(会366条1項)

(4)計算について
事業年度

(5)公告について
公告の方法(会939条1項)

15.株式会社の定款の配列は,通常どのようになっていますか。

従来は,総則・株式・株主総会・取締役・取締役会・監査役・計算・附則の順に章を立てるのが普通であり,会社の規模等により機関すなわち「取締役・取締役会・監査役」に関する事項を各独立の章としたり一括の章としたりするなどの工夫がなされていました。
会社法の下でも,基本的には同様です。すなわち,総則・株式・株主総会・執行機関・監査機関・計算・附則の順となり,「執行機関」「監査機関」に関しては会社法の認める機関設計の選択幅に応じ,適切な章題を付すこととなります。

① 「総則」の章には,商号,目的,本店所在地を記載します。公告の方法を定めるなら,従来の慣例でもあり,総則に記載するのが適当です。絶対的記載事項である「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」については,総則に記載する考え方と,一過性であること,従来,「設立に際し発行する株式数」が附則に記載する慣例であったことなどから,附則に記載する考え方があり得ますが,附則に記載するのが適当と思われます。
② 「株式」の章には,定款認証の際に不可欠な記載事項はありませんが,発行可能株式総数,株券発行の有無・種類,株式の譲渡制限,基準日等,記載しておくのが相当な重要事項があります。
③ 「株主総会」の章も全て相対的記載事項又は任意的記載事項ですが,招集手続,議決要件等,記載しておくのが相当な重要事項があります。
④ 「執行機関」に関する章は,「取締役及び代表取締役」など全ての株式会社の定款において当然置かれるべきもののほか,選択した機関設計により「取締役会」「委員会」「執行役」などの章が置かれます。
⑤ 「監査機関」に関する章は,機関設計における選択の結果によっては不要になる場合がありますが,設置する場合には,「監査役」「監査役会」「会計監査人」「会計参与」等,法規に則し,会社の実情に合わせた組合せにし,その旨記載します。
⑥ 「計算」には,会計年度等を記載します。
⑦ 「附則」には,会社設立時の一過性の事項を記載するのが一般です。絶対的記載事項である「発起人の氏名又は名称・住所」を記載するほか,相対的記載事項である「現物出資」,「財産引受」,任意的記載事項である「最初の事業年度」等を記載することになります。前記のように「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」を総則でなく,附則に記載するのが適当と思われます。