DNA鑑定講座2021.06.10
「父子関係の確定における民法772条の役割と問題 – 改善への提言」
DNA鑑定講座2021.06.10
はじめに
日本の民法772条は、嫡出推定制度を定め、婚姻している女性が出産した子を夫の子と推定します。しかしこの制度は、一部のケースで問題を生じさせることがあります。例えば、夫以外の男性との間に子をもうけた女性や、その男性、子自身が関与する「300日問題」では、民法772条の規定が父子関係の確定に混乱をもたらします。
今回この問題に焦点を当て、改善のための簡単な提言を行います。
まず、民法772条の嫡出推定制度が果たしている役割とその重要性を再認識することが必要です。
比較法的に見ると、この制度は「出産した女性の夫を父とする」もので、広く採用されているものです。この制度がなければ、父親の特定が困難になり、社会の基本的なルールとして機能するこの制度を捨てることは簡単ではありません。
しかし、その一方で、民法772条の嫡出推定制度は覆すことが可能である点も理解するべきです。嫡出否認という制度を通じて、特定の条件下でこの推定を覆すことができます。
現行法では、否認権者は夫に限定されていますが、これには合理性が欠け、子の福祉を損なう可能性があります。たとえば、子供が離婚後300日以内に出生した場合、法律上、父親は前婚の父と推定されてしまうため、母親が真実の父を子の法的な父親としたい場合は、前夫の協力により、嫡出否認を行うことが必要となります(実務上は親子鑑定不存在確認という手段もあるがその点は置いて)。従って、否認権者の拡大は必要と考えます。
これにより、300日問題の一部は解決されるでしょう。しかし、例えば、子や女性(母親)が家庭生活を破壊される恐れがある場合、問題は未解決のままです。これについては、法的手続きの際に特定の情報を制限するなど、手続的な対応が求められます。
なお、実務上は、生物学上の父親に認知を求める調停を母側が起こすことによる処理を行っていることもあります。その際に通常はDNA鑑定を行います。しかしながら、判例が外観説(外観上,夫による懐胎が不可能であることが明らかな場合に限って(外国滞在中であったり,刑務所に入っていたような場合),民法772条の適用が及ばないとする見解)をとっていることの整合性からは、こうした解決が妥当であるか疑問があります。
以上を考慮に入れ、次のような政策提言を行います。
提言
民法772条の嫡出推定制度の存続
この制度は、父子関係の確定を容易にし、子の福祉を保護します。そのため、この制度自体は存続すべきです。
嫡出否認権者の拡大
現行法の中で、嫡出否認権は夫に限定されていますが、これは子の福祉に必ずしも配慮した制度とは言えません。子、実父、そして母親も含めた全ての関係者の権益を考慮に入れるため、嫡出否認権者を拡大すべきです。
情報制限の導入
特に300日問題においては、子や母親のプライバシーや生活が破壊される可能性があります。そのため、法的手続きの際に、特定の情報を制限する(当事者に関する情報の開示の制限や,直接の交渉の制限等)などの手続的な対応を導入するべきです。
むすび
民法772条の嫡出推定制度は、一部で混乱を生じさせるものの、多くの場合で父子関係を円滑に確定させ、子の福祉を保護する役割を果たしています。しかし、それでも生じる問題に対しては、上記の提言のような改善が求められます。日本の法律が現代社会の複雑な問題に対応し、すべての関係者の権利と福祉を守ることができるように、改善の取り組みを進めることが重要です。
民法第772条(嫡出の推定)
- 1. 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
- 2. 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
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