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判例集2019.02.15

上陸許可取消処分取消等請求事件

判例集2019.02.15

大阪地方裁判所平成18年6月14日 判決

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 被告大阪入国管理局関西空港支局入国審査官が平成16年9月17日付けで原告に対してした上陸許可取消処分を取り消す。

2 被告大阪入国管理局長が平成16年10月14日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前のもの)49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決を取り消す。

3 被告大阪入国管理局主任審査官が平成16年10月14日付けで原告に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。

第2 事案の概要

本件は,大阪入国管理局(以下「大阪入管」という。)入国審査官が被告大阪入国管理局関西空港支局入国審査官(以下「被告入国審査官」という。)に代わり上陸許可取消処分をしたことに基づいて,大阪入管入国審査官が原告は出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前のもの。以下「入管法」という。)24条2号(不法上陸)に該当する旨の認定をし,これに対する原告の口頭審理の請求を受けた大阪入管特別審理官が上記認定に誤りがない旨判定したのに対し,原告が入管法49条1項に基づき異議の申出をしたが,法務大臣から権限の委任を受けた被告大阪入国管理局長(以下「被告入管局長」という。)が上記異議の申出は理由がない旨の裁決をし,さらに,被告大阪入国管理局主任審査官(以下「被告主任審査官」という。)が原告に対して退去強制令書発付処分をしたため,原告が,上記上陸許可取消処分,上記裁決及び上記退去強制令書発付処分はいずれも違法なものであるなどとして,それらの各取消しを求めている抗告訴訟である。

1 法令の定め

(1)上陸許可に関する法令の定め

入管法7条1項は,入国審査官は,入管法6条2項の申請があったときは,当該外国人が入管法7条1項各号に掲げる上陸のための条件に適合しているかどうかを審査しなければならない旨規定し,入管法7条1項2号は,上陸のための条件のーつとして,申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく,入管法別表第一の下欄に掲げる活動又は入管法別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有するものとしての活動のいずれかに該当し,かつ,入管法別表第一の二の表及び四の表の下欄に掲げる活動を行おうとする者については我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案して法務省令で定める基準に適合すること,と規定している。そして,入管法7条2項は,同条1項の審査を受ける外国人は,同項に規定する上陸のための条件に適合していることを自ら立証しなければならない旨規定している。そして,入管法別表第一の二の表の興行の項の下欄は,興行のビザで本邦において行うことができる活動を,演劇,演芸,演奏,スポーツ等の興行に係る活動又はその他の芸能活動(同表の投資・経営の項の下欄に掲げる活動を除く。)と規定している。

出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令(平成17年法務省令第16号による改正前のもの。以下「上陸許可基準省令」という。)は,入管法7条1項2号の基準は,入管法6条2項の申請を行った者(以下「申請人」という。)が本邦において行おうとする上陸許可基準省令の表の上欄に掲げる活動に応じ,それぞれ同表の下欄に掲げるとおりとすると規定し,入管法別表第一の二の表の興行の項の下欄に掲げる活動に係る基準については,その「興行」欄において,次のとおり規定している。

一 申請人が演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行に係る活動に従事しようとする場合は,二に規定する場合を除き,次のいずれにも該当していること。

イ 申請人が従事しようとする活動について次のいずれかに該当していること。ただし,当該興行を行うことにより得られる報酬の額(団体で行う興行の場合にあっては当該団体が受ける総額)が1日につき500万円以上である場合は,この限りでない。

(1) 外国の国若しくは地方公共団体又はこれに準ずる公私の機関が認定した資格を有すること。

(2) 外国の教育機関において当該活動に係る科目を2年以上の期間専攻したこと。

(3) 2年以上の外国における経験を有すること。

ロ 申請人が次のいずれにも該当する本邦の機関に招へいされること。ただし,主として外国の民族料理を提供する飲食店(風俗営業及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号。以下「風営法」という。)2条1項1号又は2号に規定する営業を営む施設を除く。)を運営する機関に招へいされる場合で,当該飲食店において当該外国の民族音楽に関する歌謡,舞踊若しくは演奏に係る活動に従事しようとするときは,この限りでない。

(1) 外国の興行に係る業務について通算して3年以上の経験を有する経営者又は管理者がいること。

(2) 5名以上の職員を常勤で雇用していること。

(3) 申請人を含めた当該機関において興行に係る活動に従事する興行のビザをもって在留する者の人数が,これらの者が従事する興行を管理する常勤の職員で,かつ,当該機関に引き続き6月以上雇用されている者1名について10名以内であること。ただし,当該興行が興行場法(昭和23年法律第137号)1条2項に規定する興行場営業が営まれている施設において行われる場合は,この限りでない。

(4) 当該機関の経営者又は常勤の職員が入管法73条の2の罪又は売春防止法(昭和31年法律第118号)6条若しくは12条の罪により刑に処せられたことがないこと。ただし,その刑の執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過している場合は,この限りでない。

(5) 当該機関の経営者又は常勤の職員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則(昭和60年国家公安委員会規則第1号。以下「風営法施行規則」という。)5条各号に規定する罪のいずれかに当たるものを犯したことがないこと。

ハ 申請人の出演する施設が次に掲げるいずれの要件にも適合すること。ただし,興行に係る活動に従事する興行のビザをもって在留する者が当該施設において申請人以外にいない場合は,(6)及び(7)に適合すること。

(1) 不特定かつ多数の客を対象として外国人の興行を行う施設であること。

(2) 風営法2条1項1号又は2号に規定する営業を営む施設である場合は,次に掲げるいずれの要件にも適合していること。

( ) 専ら客の接待に従事する従業員が5名以上いること。

( ) 興行に係る活動に従事する興行のビザをもって在留する者が客の接待に従事するおそれがないと認められること。

(3) 13平方メートル以上の舞台があること。

(4) 9平方メートル(出演者が5名を超える場合は,9平方メートルに5名を超える人数の1名につき1.6平方メートルを加えた面積)以上の出演者用の控室があること。

(5) 当該施設の従業員の数が5名以上であること。

(6) 当該施設を運営する機関の経営者又は当該施設に係る業務に従事する常勤の職員が入管法73条の2の罪又は売春防止法6条若しくは12条の罪により刑に処せられたことがないこと。ただし,その刑の執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過している場合は,この限りでない。

(7) 当該施設を運営する機関の経営者又は当該施設に係る業務に従事する常勤の職員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で風営法施行規則5条各号に規定する罪のいずれかに当たるものを犯したことがないこと。

ニ 申請人が月額20万円以上の報酬を受けること。

二 申請人が演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行に係る活動に従事しようとする場合で,次のイ,ロ又はハに該当するときは,イについては一のニに,ロ又はハについては一のハ(6),(7)及びニにそれぞれ該当していること。

イ 申請人が我が国の国若しくは地方公共団体の機関,我が国の法律により直接に設立された法人若しくは我が国の特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人又は学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する学校,専修学校若しくは各種学校に招へいされる場合

ロ 申請人が我が国と外国との文化交流に資する目的で国,地方公共団体又は独立行政法人の資金援助を受けて設立された機関に招へいされる場合

ハ 申請人が外国の情景又は文化を主題として観光客を招致するために外国人による演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行を常時行っている敷地面積10万平方メートル以上の施設を運営する機関に招へいされる場合で,当該施設において当該興行に係る活動に従事しようとするとき。

三 申請人が演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行に係る活動以外の興行に係る活動に従事しようとする場合は,日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けて従事すること。

四 申請人が興行に係る活動以外の芸能活動に従事しようとする場合は,申請人が次のいずれかに該当する活動に従事し,かつ,日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。

イ 商品又は事業の宣伝に係る活動

ロ 放送番組(有線放送番組を含む。)又は映画の製作に係る活動

ハ 商業用写真の撮影に係る活動

ニ 商業用レコードの録音に係る活動

(2) 退去強制に関する法令の定め

入国審査官から上陸の許可等(上陸許可の証印又は上陸の許可をいう。入管法3条1項2号参照。)を受けないで本邦に上陸した者については,以下の手続により,本邦からの退去を強制することができる(入管法24条2号)。

ア 入国警備官は,入管法24条各号の一に該当すると思料する外国人があるときは,当該外国人(以下「容疑者」という。)につき違反調査をすることができ(入管法27条),容疑者が入管法24条各号の一に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときは,収容令書により,その者を収容することができ(入管法39条1項),容疑者を収容したときは,容疑者の身体を拘束した時から48時間以内に,調書及び証拠物とともに,当該容疑者を入国審査官に引き渡さなければならない(入管法材条)。

イ 入国審査官は,容疑者の引渡しを受けたときは,容疑者が入管法24条各号の一に該当するかどうかをすみやかに審査しなければならず(入管法45条1項),審査の結果,容疑者が入管法24条各号の一に該当すると認定したときは,すみやかに理由を附した書面をもって,主任審査官及びその者にその旨を知らせなければならず(入管法47条2項),その通知を受けた容疑者は,上記認定に異議があるときは,その通知を受けた日から3日以内に,口頭をもって,特別審理官に対し口頭審理の請求をすることができる(入管法48条1項)。特別審理官は,口頭審理の請求があったときは,容疑者に対し,時及び場所を通知してすみやかに口頭審理を行わなければならず(同条3項),口頭審理の結果,上記の入国審査官の認定に誤りがないと判定したときは,すみやかに主任審査官及び当該容疑者にその旨を知らせるとともに,当該容疑者に対し,法務大臣に異議を申し出ることができる旨を知らせなければならない(同条7項)。

ウ 特別審理官からの通知を受けた容疑者は,特別審理官の判定に異議があるときは,その通知を受けた日から3日以内に,法務大臣に対し異議を申し出ることができ(入管法49条1項),法務大臣は,上記の異議の申出を受理したときは,異議の申出が理由があるかどうかを裁決してその結果を主任審査官に通知しなければならず(同条3項),主任審査官は,法務大臣から異議の申出が理由がないと裁決した旨の通知を受けたときは,すみやかに当該容疑者に対し,その旨を知らせるとともに,退去強制令書を発付しなければならない(同条5項)。ただし,法務大臣は,上記の異議の申出に対する裁決をするに当たり,異議の申出が理由がないと認める場合でも,当該容疑者について特別に在留を許可すべき事情があると認めるときは,その者の在留を特別に許可することができる(入管法50条1項3号。以下,この許可を「在留特別許可」ということがある。)。なお,入管法に規定する法務大臣の権限は,法務省令で定めるところにより,地方入国管理局長に委任することができる(入管法69条の2)。

2 前提となる事実等(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実等。以下,書証番号は特に断らない限り枝番を含むものとする。)

(1) 当事者等の身分事項等

ア 原告は,1975年(昭和50年)*月*日,華人民共和国(以下[中国」という。)の上海市において出生した中国国籍を有する外国人(女性)である。【乙1】

イ(ア) 乙原太郎(以下「乙原」という。)は,昭和33年*月*日,北九州市において出生した日本国籍を有する男性である。【甲1,乙19】

(イ) 乙原の婚姻歴【甲1,乙19】

a 乙原は,昭和61年12月3日に日本人の女性(昭和40年生)と婚姻し,昭和63年に長男を,平成3年に長女をそれぞれもうけたが,平成7年3月14日に上記女性と協議離婚した。

b 乙原は,平成9年1月14日にタイ国籍を有する女性(1960年(昭和35年)生)と婚姻したが,平成10年9月28日に同女と協議離婚した。

c 乙原は,平成11年5月21日に上記bの女性とは別のタイ国籍を有する女性(1964年(昭和39年)生)の子(1992年(平成4年)生)を認知し,同年7月2日に上記女性と婚姻したが,平成14年10月9日に同女と協議離婚した。

(2) 原告の入国経過及び在留状況等

ア 原告は,平成15年7月30日,原告の招へい会社である有限会社△△コ一ポレ一シヨン(以下「△△コ一ポレ一ション」という。)代表取締役戊谷正一を代理人として,広島入国管理局において,法務大臣に対してビザ認定証明書の交付申請(以下「本件交付申請」という。)をし,入管法69条の2,出入国管理及び難民認定法施行規則61条の2第1号により法務大臣から権限の委任を受けた広島入国管理局長は,同年9月5日,本件交付申請をした原告代理人のΔ△コ一ポレ一ションに対し,ビザを「興行」とするビザ認定証明書(以下「本件認定証明書」という。)を交付した。【乙2,3】

イ 原告は,平成15年11月8日,関西国際空港に到着し,大阪入管関西空港支局入国審査官に対し,本件認定証明書を提出して上陸申請(以下「本件上陸申請」という。)を行い,同審査官から,同日付けで,ビザを「興行」,在留期間を6月とする上陸許可(以下「本件上陸許可処分」という。)を受け,本邦に上陸した。【争いのない事実,乙1】

ウ 原告は,上記イの後から平成16年9月17日付け収容令書の執行により収容される時(後記(4)ア参照)まで,本邦において歌謡や舞踊の興行活動に従事したことはなかった。【甲18,乙7,8,16,弁論の全趣旨】

エ 原告と乙原は,平成16年4月12日,日本国の方式に従い婚姻の届出をした。【争いのない事実,甲1】

(3) 原告に対する上陸許可取消処分に至る経緯等

ア 原告は,平成16年4月26日,大阪入管局長に対し,変更の理由を「結婚」,希望するビザを「日本人の配偶者」などとして,在留資格変更許可申請をした。【争いのない事実,乙4】

イ 大阪入管入国審査官は,平成16年9月17日付けで,原告が入管法7条1項2号に規定された上陸の条件に適合していなかったことが判明したことを理由として,被告入国審査官に代わり,本件上陸許可処分を上陸日にさかのぼって取り消す旨の処分(以下「本件上陸許可取消処分」という。)をし,同日,同処分を原告に通知した。【争いのない事実,甲2】

ウ 大阪入管局長は,平成16年9月17日,上記アの在留資格変更許可の審査を終止した。【乙1】

(4) 原告に対する退去強制令書の発付に至る経緯

ア 大阪入管入国警備官は,平成16年9月17日,原告に対する入管法24条2号(不法上陸)の容疑で大阪入管主任審査官から収容令書の発付を受け,同日,大阪入管において,これを執行して原告を収容し,同日,原告を大阪入管入国審査官に引き渡した。【乙6,弁論の全趣旨】

イ 大阪入管入国審査官は,平成16年9月28日,原告が入管法24条各号の一に該当するかどうかを審査した結果,原告は同条2号(不法上陸)に該当すると認定し(以下,この認定を「本件認定」という。),同日,原告にその旨を通知したところ,原告は,同日,口頭審理の請求をした。【争いのない事実,甲3,乙7】

ウ 大阪入管特別審理官は,平成16年10月7日,原告に対する口頭審理の結果,原告が入管法24条2号(不法上陸)に該当する旨の認定に誤りはないと判定し(以下,この判定を「本件判定」という。),同日,原告にその旨を通知したところ,原告は,同日,法務大臣に対し,入管法49条1項の異議の申出をした。【争いのない事実,甲5,乙8,9】

エ 入管法69条の2,出入国管理及び難民認定法施行規則(平成16年法務省令第79号による改正前のもの)61条の2第9号,10号により法務大臣の権限の委任を受けた被告入管局長は,平成16年10月14日付けで,原告の異議の申出については理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし,同日,同裁決を被告主任審査官に通知した。【争いのない事実,乙10,11】

オ 被告主任審査官は,平成16年10月14日,原告に本件裁決を通知するとともに,同日付けで,原告に対し,送還先を中国とする退去強制令書の発付処分(以下「本件退令発付処分」という。)をした。大阪入管入国警備官は,同日,大阪入管において,上記退去強制令書を執行し,原告を大阪入管収容場に収容し,同年11月18日,原告を大阪入管収容場から入国者収容所西日本入国管理センタ一に移送した。【争いのない事実,甲6,乙11】

(5) 原告による本件訴えの提起等【顕著な事実】

ア 原告は,平成16年11月15日,当裁判所に対し,本件上陸許可取消処分及び本件退令発付処分の各取消しを求める本件訴えを提起した。なお,原告は,本件訴状において,本件上陸許可取消処分の取消しを求める請求に係る被告を大阪入管入国審査官,本件退令発付処分の取消しを求める請求に係る被告を被告主任審査官とした。

イ 原告は,平成16年11月26日付けで,当裁判所に対し,本件訴えに係る請求を,本件上陸許可取消処分,本件裁決の取消し及び本件退令発付処分の各取消しに訂正する旨の「訴状訂正の申立書」と題する書面を提出した。なお,原告は,上記書面において,本件上陸許可取消処分の取消しを求める請求に係る被告を大阪入管入国審査官,本件裁決の取消しを求める請求に係る被告を被告主任審査官,本件退令発付処分の取消しを求める請求に係る被告を被告主任審査官とした。

ウ 本件訴訟の訴状及び上記イの「訴状訂正の申立書」と題する書面は,平成16年12月1日,大阪入管入国審査官及び被告主任審査官に各送達された。

エ 原告は,平成16年12月28日,当裁判所に対し,本件訴えのうち本件裁決の取消しを求める請求に係る被告を被告主任審査官から被告入管局長に変更する旨の申立てをし(大阪地方裁判所平成16年(行ク)第86号被告変更申立て事件),当裁判所は,平成17年1月4日,上記の被告の変更を許可する旨の決定をした。

オ 原告は,平成17年3月7日,当裁判所に対し,本件訴えのうち本件上陸許可取消処分の取消しを求める請求に係る被告を大阪入管入国審査官から被告入国審査官に変更する旨の申立てをし(大阪地方裁判所平成17年(行ク)第8号被告変更申立て事件),当裁判所は,同日,上記の被告の変更を許可する旨の決定をした。

第3 本件の争点

  (1) 本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動が虚偽のものである(入管法7条1項2号参照)と認められるか否か。

  (2) 本件裁決の取消訴訟において,原告が退去強制事由(入管法24条2号)の不存在を主張することが許されるか否か。それが許されるとした場合に,原告には上記退去強制事由が認められるか否か。

  (3) 被告入管局長が原告の在留を特別に許可することなく本件裁決をしたことが適法であるか否か。

  (4) 本件退令発付処分が適法であるか否か。

4 争点についての当事者の主張

  (1) 争点(1)(本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動の虚偽性)について

(被告らの主張)

本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動は虚偽のものである。

ア 上陸許可取消処分の要件及びその解釈

(ア) 前記1のとおり,入管法7条1項2号は,上陸のための要件として,(1) 申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでないこと(活動の真実性),(2) 申請に係る本邦において行おうとする活動が入管法別表第一の下欄に掲げる活動又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有するものとしての活動のいずれかに該当すること(ビザ該当性),(3) 我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案して法務省令で定める基準の適用のあるビザについてはその基準に適合すること(上陸許可基準適合性),を定め,同条2項は,本邦に上陸しようとする外国人は,上陸審査において,これらビザに関する上陸のための条件に適合していることを自ら立証しなければならない,と定めている。

(イ) 活動の真実性の要件((1)の要件)は,ビザ該当性の要件((2)の要件)及び上陸許可基準適合性の要件((3)の要件)の有無を適切に判断するための前提となるものであるところ,ビザ該当性の要件については,本邦に上陸しようとする外国人が,入管法別表第一の下欄に掲げる活動又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有するものとしての活動のいずれかを行う意思を有しているというだけでは足りず,申請に係る具体的な活動を継続して確実に行うことができるというに足りる客観的な事情が存在しなければならず,また,上陸許可基準適合性の要件については,法務省令が具体的に定めている上陸許可の要件(本件の原告のように「興行」のビザで本邦に上陸しようとする外国人については,上陸許可基準省令がその要件を定めている。前記1(1)参照。)が存在しなければならない。

そうすると,活動の真実性の要件としての「申請に係る本邦において行おうとする活動」にいう「申請」とは,ビザ該当性の要件及び上陸許可基準適合性の要件として要求されている各事項についての具体的な申告をいうのであり(出入国管理及び難民認定法施行規則6条,6条の2,別表第三「興行」欄参照),活動の真実性の要件を満たしているかどうかの判断は,ビザ該当性の要件及び上陸許可基準適合性の要件として要求されている各事項について具体的に申告しているところが虚偽のものであるかどうかを検討してされるべきである。

したがって,形式上ないし外観上,ビザ該当性の要件((2)の要件)及び上陸許可基準適合性の要件((3)の要件)を満たしているかのような「申請に係る本邦において行おうとする活動」が,実際には虚偽であったことが明らかとなった場合には,ビザ該当性の要件及び上陸許可基準適合性の要件はもとより,そもそも活動の真実性の要件((1)の要件)を満たしていなかったとして,上陸許可が取り消されることになる。なお,このことは,ビザ認定証明書の交付の際の上陸のための条件に適合しているか否かの判断についても,当然に当てはまるものというべきである。

イ 原告の「申請に係る本邦において行おうとする活動」の具体的内容

(ア) 「興行」のビザで本邦に上陸しようとする外国人の「申請に係る本邦において行おうとする活動」の意義

前記アを前提とすれば,「興行」のビザで本邦に上陸しようとする外国人については,経歴書等の書類による能力,資質に係る申告事項,特定の招へい機関の管理下で活動を行うこと及び興行の具体的な内容も,当該外国人の「申請に係る本邦において行おうとする活動」の内容を成すものというべきである。その理由は以下のとおりである。

a 「興行」のビザで本邦に上陸しようとする外国人は,上陸許可の申請に当たって,経歴書並びに活動に係る経歴及び資格を有する公的機関が発行した文書を提出しなければならない(出入国管理及び難民認定法施行規則6条,6条の2,別表第三「興行」欄1号)。これは,興行に係る活動を行う外国人芸能人は公衆の前で芸を演じる十分な能力を有していなければならない,との観点から設けられた上陸許可基準省令の外国人芸能人に係る要件(上陸許可基準省令「興行」欄1号イ)の有無を判断する前提となるとともに,申請に係る活動を継続して確実にできるか否かというビザ該当性の有無の判断の一資料となることによるものである。

そうすると,これらの書類による申告事項も「申請に係る本邦において行おうとする活動」の内容を成すものというべきである。

b 「興行」のビザで本邦に上陸しようとする外国人は,上陸許可の申請に当たって,当該外国人を招へいする招へい機関に関する資料も提出しなければならない(出入国管理及び難民認定法施行規則6条,6条の2,別表第三「興行」欄1号)。これは,外国人芸能人を招へいする機関(プロモーター等)は外国人芸能人と雇用契約を結んだ受入機関として外国人芸能人及びその行う興行に係る活動についての十分な管理能力を有していなければならない,との観点から設けられた上陸許可基準省令の招へい機関に係る要件(上陸許可基準省令「興行」欄1号ロ)の有無を判断する前提となるとともに,申請に係る活動を継続して確実にできるか否かというビザ該当性の有無の判断の一資料となることによるものである。そして,招へい機関は,外国人芸能人の能力,資質を確認した上で招へいし,その入国後は,その外国人芸能人が専ら公演活動に従事し,その在留期間内に確実に出国するよう,その公演状況等を把握し,指導,監督することが予定されている。

そうすると,特定の招へい機関の管理下で活動を行うということも当然に「申請に係る本邦において行おうとする活動」の内容を成すものというべきであり,入国後に生じた招へい機関側の事情によってその管理に服することができなくなったというのであれば格別,入国当初から当該招へい機関の管理下で活動を行う意思がなければ,「申請に係る本邦において行おうとする活動」に虚偽があるものというべきである。

c 「興行」のビザで本邦に上陸しようとする外国人は,上陸許可の申請に当たって,興行を行う旨を抽象的に申告するのみならず,興行の内容についても具体的に申告することが予定されている(乙2参照)。これは,興行に係る活動を行う外国人芸能人は公衆の前で芸を演じる十分な能力を有していなければならない,との観点から設けられた上陸許可基準省令の外国人芸能人に係る要件(上陸許可基準省令「興行」欄1号イ)の有無を判断する前提となるとともに,申請に係る活動を継続して確実にできるか否かというビザ該当性の有無の判断の一資料となることによるものである。

そうすると,興行の具体的な内容も「申請に係る本邦において行おうとする活動」の内容を成すものというべきである。なお,この点については,確かに,「興行」のビザを得た外国人芸能人は,入管法別表第一の二「興行」欄の下欄に掲げる活動を行うことができる旨定められており (入管法2条の2第2項),上陸許可申請の際に申告した興行の内容のみにその活動が限られるものではないが,だからといって,上陸許可申請に当たり,当初からするつもりのない興行の内容を申告することが許されるものではない。このような虚偽申告は,ビザ該当性の要件及び上陸許可基準適合性の要件の有無の適正な判断を害するものである上,真実適正な興行活動を行おうとする外国人にとって,あえて虚偽申告をしなければならない正当な理由があるような事柄ではないから,当初からするつもりのない興行の内容を申告すれば,「申請に係る本邦において行おうとする活動」に虚偽があるものというべきである。

(イ) 本件への当てはめ

原告は,ビザ認定証明書の交付申請に際し,入国目的を「興行」,興行の内容を「舞踊」,招へい者又は雇用者を広島市所在の「有限会社△△コーポレーション」,今後の出演先を広島市所在の「□□」と申告し(乙2),その際,舞踊に関する能力,資質を裏付ける履歴書等の資料を添付し(乙12ないし14,23),この申請を受けた広島入管局長は,ビザを「興行」とするビザ認定証明書(本件認定証明書)を交付した。その後,原告は,本件認定証明書を提出して本件上陸申請を行い,上記と同様のビザとする上陸許可(本件上陸許可)を受けて本邦に上陸した(前記前提となる事実等(2)ア,イ)。

そうすると,原告の申請に係る本邦において行おうとする活動とは,原告が,上記履歴書等の資料に記載された舞踊に関する能力,資質を有することを前提として,△△コーポレーションの管理下で,「□□」において舞踊をすることを内容とする興行活動であるというべきである。

ウ 本件上陸申請に係る原告の「申請に係る本邦において行おうとする活動」の虚偽性

(ア) 原告の舞踊の能力,資質を証する履歴書等の記載が虚偽であった。

原告は,本件認定証明書の交付申請に際して,履歴書(乙12),在職証明書(乙13)及び出演証明書(乙14)を添付しているところ,これらの書類によれば,原告は,上海市□浦中学(高中)を卒業後,1999年(平成11年)に中国擠南新感覺藝術團に入団し,同藝術團の劇場において舞踊のタレントとして出演したことになっている。しかし,原告は,自ら原告の舞踊の能力,資質を証する上記履歴書等の資料の記載が虚偽であることを認めている(乙5,原告本人)から,原告の「申請に係る本邦において行おうとする活動」の内容に虚偽があるというべきである。

なお,原告は,本人尋問において,中国において踊り等のアルバイトをしたことがある旨供述しているが,上陸許可基準省令「興行」欄1号イ(3)にいう「外国における経験」とは,職業芸能人として興行に係る活動に実際に従事していた経験をいい,単発的に興行に係る活動を行った経験は含まれないから,アルバイトの経験は当然に含まれないというべきであり,原告の上記供述を前提としても,上陸許可基準省令「興行」欄1号イ(3)の定める要件を満たすものではない。

(イ) 原告の△△コーポレーションの管理下で活動を行う旨の申請が虚偽であった。

すなわち,原告は,本邦に入国後,出演予定である□□に赴くことはなかった上,自己の招へい機関である△△コーポレーションに対し,本邦内における行動予定や居住地はおろか,本邦に入国したという事実すら連絡していない(乙23)。また,原告自身,本人尋問において,中国のプロダクションに足をけがしたと伝えたこと,中国のプロダクションに日本に行くつもりであることは伝えたが,具体的にいつ行くとは伝えていないこと,日本に入国後のことについてプロダクションと打合せをしていないこと,日本に来てから中国のプロダクションと一切連絡を取っていないこと,自己を招へいした機関に連絡を取ったことはなく,自己を招へいした機関の名前も連絡先も知らないこと,を述べている。そして,招へい機関は,外国人芸能人の指導,監督を行うことが予定されているから,足をけがして直ちに興行活動に従事することができない外国人芸能人を入国させるとは考えられず,また,入国後のことについて何らの打合せもすることなく外国人芸能人を入国させるとも考えられない(乙23)。

そうすると,原告は,招へい機関である△△コーポレーションに無断で日本に入国し,入国後一切舞踊活動に従事しておらず,広島の仕事に行くことをやめた後もそのことを中国のプロダクションや△△コーポレーションに伝えようとせず,また,そもそも自己を招へいする機関の名前も連絡先も分からないのであって,原告が招へい機関である△△コーポレーションの管理下で舞踊の仕事を行うこととはほど遠い状況にあるのであるから,原告は△△コーポレーションの管理下で活動を行う意思を有していなかったというべきである。

(ウ) 原告の舞踊を内容とする興行活動を行う旨の申請が虚偽であった。

原告は,日本に舞踊活動をする目的で入国したと主張しているにもかかわらず,供述調書(乙5,7,16)においては,本邦において歌手として働くつもりであった旨を一貫して供述しており,舞踊活動をする目的については一切語っておらず,また,自らの舞踊のタレントとしての経歴も全く述べていない。なお,原告は,本件訴訟において踊りもするつもりだった旨を供述するに至った(甲18,原告本人)が,その供述は,原告の供述経過(被告らの指摘を受けて供述を変遷させていること)に照らして信用することができない。

そうすると,原告には,当初から舞踊を内容とする興行をする意思が全くなかったことは明らかである。

(エ) 原告自身,本邦に入国当初から興行活動(舞踊活動)をすることを目的としていなかったことを自認している。

a 原告は,供述調書(乙5,15)において,自分が日本に来たのは丙山一夫の妻が妊娠中であったのでその世話をするためである,日本で仕事はしていない,8月か9月に足の小指を骨折し,日本に来る直前に石膏が取れ,長時間ハイヒールを履くことができないので仕事ができないと思った,しかしその時既にビザが出ていたのでそれを使わないと勿体ないと思い興行のビザで来日した,EDカードの渡航目的に「商務学習」と書いたのは自分のビザと職業とのつじつまが合わなくなるからである,本当の目的である丙山一夫の妻の妊娠の世話をすると書いたら入国できないと思っていたからである,などと供述している。

b 原告は,足のけがについて,入国当時にはけがは相当程度回復していたのであり,入国後短期間で完治し働く前には長時間は要しないことは明らかであった,足のけがの経過は良好であった,などと主張する。しかし,原告は,実際に舞踊活動に従事しなかったばかりか,これに従事すべく招へい機関である△△コーポレーションと連絡を取ろうとすらしなかった。

また,原告は,入国後直ちに仕事をしなかった理由として,足のけがをしており,長時間ハイヒールを履くことができなかった旨主張し,足が治れば招へい機関に戻って仕事をするつもりであった旨主張するが,原告が真に舞踊活動を行う意思を有していたのであれば,仕事ができるか否かを確かめるべくハイヒールを履くことができるようになったか否かについて重大な関心を抱くのが自然であるが,原告は,いつからハイヒールを履くことができるようになったのか分からない,長い間ハイヒールを履いていないのではっきりは分からないが履くことはできると思う,などと供述している(乙8)。さらに,原告は,本件訴訟提起後は,踊りではハイヒールを履くことが必要であるから仕事ができないが,歌ならハイヒールでなくても仕事ができると思い来日した,などと供述を変遷させている(甲18,原告本人)。

以上によれば,原告が舞踊活動をする意思を有していなかったことは明らかである。

c 原告は,丙山一夫の妻の出産等を手伝うために来日した旨の原告の供述調書(乙5,7,8)を作成した際の通訳の正確性や任意性について疑問がある旨主張する。しかし,そもそも,被告らは原告の入国目的が丙山一夫の妻の出産等を手伝うことにあるという認定をしておらず(被告らは,原告が終始信用することができない供述をしているため,意識的に虚偽の供述をしていると主張しているにすぎない。),被告らにおいて原告が出産等を手伝うために来日した旨の供述を得る必要性がないことからすれば,上記調書作成時に誘導,強要,理詰めの尋問,通訳者のおもねり等があったことはなく,また,原告の供述調書4通は,すべて異なる時期に,異なる大阪入管の職員によって作成され,その際3名の異なる通訳人が通訳に当たっており,さらに,原告はいずれの調書においても読み聞けを受けた上で間違いない旨を申し立て,とりわけ乙7,16の調書においては加筆,訂正を申し立てており,その都度担当職員がその旨を記載しているのであるから,通訳の正確性や任意性には疑問はない。

さらに,原告は,原告の入国目的について,丙山一夫の妻の出産を手伝うためとの記載が調書にあることを論難するが,入国審査官らにとっては,丙山一夫の妻が妊娠したことはもとより,在留資格変更許可申請書(乙4)等に記載のない丙山一夫夫妻や原告との関係すら予想もし得ない事柄であるから,原告から供述がないのにそのような記載ができるとは考え難い。また,そもそも,被告らは,上記のとおり,原告の入国目的が妊娠中の丙山一夫の妻の世話をすることにあったなどという認定をしていないのであるから,被告らがそのように認定していることを前提とする原告の主張は失当である。

(オ) 原告には,興行活動(舞踊活動)をすることとは別の入国目的がうかがわれる。

原告は,本邦に入国後およそ3か月程度の間,丙山一夫とその妻丁川葉子と生活していた旨を供述している(乙5)ところ,大阪入管の調査の結果によれば,丙山一夫の妻は,大阪市中央区東心斎橋においてラウンジを経営していること,同店では丙山一夫の妻の実妹がホステスとして勤務していること,丙山一夫の妻の供述内容に照らしても同店で中国人女子学生をホステスとして不法就労させていた疑いが払拭できないこと,が判明している(乙24)。そうすると,原告は,住み慣れた中国を離れてわざわざ虚偽の申請をしてまで本邦に入国し(前記(ア)ないし(ウ)参照),入国と同時にラウンジを営む丙山一夫の妻の下に身を寄せ,また,丙山一夫の妻が営むラウンジでは,丙山一夫の妻の身内がホステスとして稼働していたのであるから,同じく丙山一夫の妻の身内といえる原告においても,真実はラウンジ等で稼働することを目的としていたと疑うには十分な事情があるということができる。

(カ) 以上のとおりであるから,本件上陸申請に係る原告の「本邦において行おうとする活動」は虚偽のものというべきである。

エ 原告のその他の主張に対する反論

原告は,本件上陸許可取消処分は,原告と乙原との婚姻という正当な事情の変更を無視したものであるなどと主張するが,原告と乙原とが婚姻の届出をしたことは,本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動が虚偽のものであったか否かとは関係がない。

また,原告の上記主張を,原告は,本件上陸許可により本邦に滞在することができるとの信頼を抱き,その信頼に基づいて乙原と婚姻したから,その信頼が保護されるべきである旨の主張しているものと善解することができるとしても,前記ウのとおり,原告は自ら虚偽の上陸申請を行っているのであるから,それによって上陸許可を取得したことに対する原告の信頼を保護すべき理由はない。

よって,原告の上記主張はそれ自体失当である。

オ 以上のとおり,本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動は虚偽のものであり,原告は入管法7条1項2号に規定する上陸のための条件に適合していなかったから,本件上陸許可処分には原始的瑕疵が存する。したがって,本件上陸許可取消処分は適法である。

(原告の主張)

本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動は虚偽のものではない。

ア 原告は本邦に入国した当初から興行活動をする目的を有していたから,原告の「申請に係る本邦において行おうとする活動」は虚偽のものではない。

(ア) 「興行」のビザに係る「申請に係る本邦において行おうとする活動」が虚偽か否かは,当該外国人が主観的に興行活動をする目的を有していれば足り,その行動を客観化ならしめるための行動を入国後直ちにする必要はなく,当初の入国目的である興行活動に従事しなかったからといって上陸許可処分が取り消される理由はない(よって,足をけがしている者が,本邦上陸後静養するなり勉強するなりしてから本来の上陸目的である興行を始めたとしても,そのことは違法ではない。)。このことは,ビザ認定証明書交付申請書(乙2)及びビザ認定証明書(乙3)のどこにも興行活動の開始時期が記載されていないことからも明らかである。

(イ) 原告は,平成15年8月に足のけが(骨折)をし,本邦へ入国した同年11月の時点では足のけがが十分に回復していなかったため,入国後直ちに舞踊活動をするのは困難ではあった。もっとも,原告は,歌を歌うことは可能であったので,歌謡をするつもりで来日した。また,原告は,本邦に入国後は,足のけがの経過が良好であった(原告は,平成15年11月1日,同年12月27日にそれぞれ診察を受けている。甲8ないし10)ため,足のけがが治れば招へい機関に赴いて働くつもりであった。

そして,原告は,足のけがを治すために,本邦に入国後,親戚である丙山一夫を頼ってしばらく養生生活をしていたところ,その養生中に日本人の乙原と知り合い,同人に恋愛感情を抱いて交際を続け,その後同人と実質的に夫婦となり,さらに,同人と婚姻をして日本人の配偶者となった(なお,原告と乙原との間の婚姻関係が実態を伴う真正なものであることは,後記(3)(原告の主張)のとおりである。)。そのため,原告は,結局のところ舞踊活動に従事することができなかったのであるが,これは日本人との婚姻という正当な事情の変更によるものであるというべきである。

(ウ) そうすると,原告は,本邦に入国した当初から,主観的に興行活動をする目的を有していたのであるから,本件上陸申請に係る原告の「申請に係る本邦において行おうとする活動」は虚偽のものではないというべきである。

イ 被告らの主張に対する反論

(ア) 被告らは,原告の舞踊の能力,資質を証する履歴書等の記載が虚偽であったから,原告の「申請に係る本邦において行おうとする活動」は虚偽であるなどと主張する。

しかし,原告は,アルバイトとはいえども有償で踊っていた経験を有しており,さらに,日本の招へい機関の関係者の面前で踊りについてのテストも受けて舞踊能力があると評価されている(原告本人)のであるから,経歴を偽ったことにはならないというべきである。なお,確かに,原告は広島県所在の「□□」において舞踊に従事することになっていた(乙23)ところ,一部の書類については中国のプロダクションが事実と異なる記載をしたと認められる(原告本人)が,これは書類の形式を整える過程で生じた技術的な問題(ケアレスミス)にすぎないのであるから,原告の舞踊能力,資質を偽るものではなく,「申請に係る本邦において行おうとする活動」が虚偽であると評価することはできない。

(イ) 被告らは,原告は実際に舞踊活動に従事しなかったばかりか,これに従事すべく招へい機関である△△コーポレーションと連絡を取ろうとすらしなかったことから,原告の「申請に係る本邦において行おうとする活動」は虚偽であるなどと主張する。

しかし,原告は自己の足のけがのことについて中国のプロダクションに伝えており,そのことが中国のプロダクションから日本の招へい機関である△△コーポレーションに連絡されている(乙23)のであって,原告は,自己のけがに係る具体的な手続はすべてプロダクションがしてくれており,自分は広島に行けばよいと理解して日本に入国しているのであるから,何ら虚偽の申告をしていない。

(ウ) 被告らは,原告の供述が変遷している点を指摘して,原告の供述を信用することができないなどと主張する。しかし,被告らの取調べの際の通訳人は被告らが任意に指名したものであり,しかも,その調書の記載内容には多数の不自然な点がある(後記(エ)b参照)のに対し,原告本人尋問における供述は,宣誓をした上でのものであり,かつ正規の通訳人による通訳に付されているものであることからすれば,原告の供述の変遷は,被告らの取調べの不正確さに起因しているものである。

(エ) 被告らは,原告の入国目的が妊娠中の丙山一夫の妻の世話をすることにあったと主張するが,これは事実誤認である。

a 原告の入国目的が妊娠中の丙山一夫の妻の世話をすることにあったとする被告らの主張は,客観的事実関係と矛盾する。

すなわち,出産は最終月経が始まった日から40ないし41週間目に行われると医学上考えられている(甲7)ところ,丙山一夫の妻が出産をしたのは平成16年6月18日であり,同人の最終月経は平成15年9月20日ころであるから,原告が本邦に入国した平成15年11月8日は,丙山一夫の妻の妊娠の初期(最終月経から2週間ないし3週間後)であるから,そのころ丙山一夫夫妻は丙山一夫の妻の妊娠を認識していなかったと推測されるのであり,ましてや,それ以前の原告が日本への出国準備中の同年8月ころから同年10月ころにおいては,なおさらである。

現に,丙山一夫夫婦は,平成15年8月ころから同年10月ころにおいては,丙山一夫の妻の妊娠の兆候さえ感じておらず(原告は,同年10月20日ころに丙山一夫に電話をしたが,そのときに両名の間で丙山一夫の妻の妊娠に関する会話はされていない。),原告が丙山一夫の妻の妊娠の事実を知ったのは,丙山一夫の家に行ってしばらくしてからのことである。

上記のとおりであるから,原告が丙山一夫の妻の出産準備等の手伝いの目的で本邦に入国したということはあり得ない。

b 被告らが根拠としている原告の供述調書(乙5,7,8)には,丙山一夫の妻の出産の手伝いをするとの目的を有していたとの記載があるが,この供述の信用性及び任意性には大いに疑問がある。

すなわち,(1) 上記供述調書の内容は,前記aの客観的事実関係と符合せず,また,(2) 上記供述調書の記載は非論理的であり,脈絡のつながりがなく一貫性に欠けることなどからすると,同調書は,日本語を理解していない原告が,入国管理局担当者から理詰めで質問され,対等に議論することができないために,本件上陸許可取消処分の意味を理解することのないまま作成されたものであり,また,同調書の記載は,通訳人が被告らに迎合して訳したものであると推測することができ,さらに,(3) 前記アのとおり,本邦に上陸後直ちに仕事をすることは上陸許可処分の要件とはなっていないと解されるにもかかわらず,被告らは,上陸後直ちに仕事を開始しなかったことをもって本件上陸申請で虚偽を申し向けたことになるなどと原告に虚偽の説明をし,それによって誤解した原告の供述を上記供述調書に記載していると推測することができる。

よって,原告は理解を十分にしないまま上記供述調書を作成されたというべきであるから,それらの信用性及び任意性は肯定することができない。

(オ) 被告らは,丙山一夫の妻が飲食店を営んでいる点を挙げ,原告の入国目的がそこで稼働することにあったと疑われるなどと主張するが,入国管理局による立入調査の結果によっても,不法滞在者やビザ違反者は1人も検挙されなかったのであるから,被告らの上記主張によって,原告の入国目的が興行目的でなかったことが裏付けられることにはならない。

ウ 外国人に対していったん上陸許可処分がされた場合には,それを自由に取り消すことができるとすべき理由はないから,上陸許可取消処分に係る判断が行政庁の自由裁量にゆだねられていると解することはできない。

エ 以上のとおりであるから,本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動は虚偽のものではなく,被告入国審査官が原告に対してした本件上陸許可取消処分は違法である。

  (2) 争点(2)(本件裁決の取消訴訟における原告の退去強制事由(入管法24条2号)の不存在の主張の許否及び原告の上記退去強制事由の存否)について

(被告入管局長及び被告主任審査官の主張)

原告は,本件裁決の取消訴訟において,原告の退去強制事由(入管法24条2号該当性)の不存在の違法を主張することができない。

ア 原告が退去強制事由(入管法24条2号)の存否を争いたいのであれば,大阪入管入国審査官が原告に対してした認定(本件認定)の取消訴訟を提起すべきである。

(ア) 原告に対する大阪入管入国審査官の認定(本件認定)は,行政事件訴訟法(平成16年法律第84号による改正前のもの。以下「行訴法」という。)3条2項にいう「処分」に当たる。

すなわち,入国審査官の認定は,私人を名あて人として退去強制という強度の侵害作用の要件である退去強制事由を認定するものであるところ,入管法は,このような入国審査官の認定の性格にかんがみ,被退去者の救済の実をあげるため,容疑者は認定に不服があるときは特別審理官に対し口頭審理の請求をすることができる(入管法48条1項),特別審理官は認定が事実に相違すると判定したときは直ちにその者を放免しなければならない(同条6項),同認定に誤りがないと判定したときはすみやかに主任審査官及び当該容疑者にその旨を知らせなければならない(同条7項),と規定している。このような入管法の規定からすれば,容疑者に入国審査官の認定に対する口頭審理の請求という不服申立権があることは明らかであるから,入管法は,入国審査官の認定に処分性を認めたものというべきである。

よって,入国審査官の退去強制事由に該当する旨の認定に不服のある外国人は,当該認定の取消しを求めて訴訟を提起することができる。

(イ) 特別審理官は,入国審査官の認定への不服申立てに対する応答として審理判定する義務を負うものであるから,原告に対する大阪入管特別審理官の判定(本件判定)は行訴法3条3項の「裁決」に当たる。

(ウ) 原告に対する被告入管局長の裁決(本件裁決)は,行訴法3条3項にいう「裁決」に当たる。

すなわち,入管法49条1項の異議の申出に対しては,法務大臣は,その申出が理由があるかどうかを裁決して,その結果を主任審査官に通知しなければならない(同条3項)から,法務大臣は,異議の申出につき判断することを義務付けられており,その判断結果は,放免行為(同条4項)ないし主任審査官からの通知(同条5項)によって申出人に対して通知される。このような入管法の規定からすれば,法務大臣には,異議の申出に対する応答義務があることは明らかであり,入管法49条1項は,容疑者に対し特別審理官の判定に対する異議の申出という不服申立権を認めたものというべきである。

そして,行訴法3条3項にいう「裁決」には再審査請求に係る裁決も含まれると解すべきところ,前記(イ)のとおり,入国審査官の認定に対する特別審理官の判定は行訴法3条3項にいう「裁決」に当たるから,入管法49条所定の裁決は,認定に誤りがない旨の特別審理官の判定への異議の申出という不服申立てに対する応答として,行訴法3条3項にいう「裁決」に当たるものというべきである。

(エ) 以上からすれば,原告に対する入国審査官の認定(本件認定)は行訴法3条2項の「処分」に,原告に対する特別審理官の判定(本件判定)及び本件裁決は行訴法3条3項にいう「裁決」に当たるのであるから,原告が退去強制事由(入管法24条2号)の存否を争いたいのであれば,大阪入管入国審査官が原告に対してした認定(本件認定)の取消訴訟を提起すべきである。

イ 本件裁決の取消訴訟において原告が主張し得る違法事由は,あくまで入管法50条1項の在留特別許可を付与しないという判断に係る違法性に限られる。

すなわち,裁決の取消しの訴えにおいては,原処分の違法を理由として取消しを求めることができない(行訴法10条2項)ところ,前記アのとおり,本件認定が行訴法3条2項にいう「処分」であり,本件判定及び本件裁決が行訴法3条3項にいう「裁決」である以上,本件裁決の取消訴訟においては,その違法事由として,原処分である本件認定に係る判断の誤り(退去強制事由の不存在)を主張することはできず,本件裁決固有の瑕疵のみを主張することができるにすぎないことは明らかである。なお,法務大臣(権限を委任された地方入国管理局長を含む。)は,入管法49条1項の異議の申出を棄却する旨の裁決をする際に,当該外国人に在留特別許可を付与するか否かを判断することができるところ,その判断に係る違法(在留特別許可の許否に係る裁量権の逸脱又は濫用)については,当該裁決固有の瑕疵に該当すると解されるから,当該裁決の取消訴訟において,その違法事由として主張することができる(後記(3)参照)。

ウ 以上のとおりであるから,原告は,本件裁決の取消訴訟において,原処分(本件認定)の違法事由である原告の退去強制事由(入管法24条2号該当性)の不存在の違法を主張することができないものというべきである。

(原告の主張)

ア 原告は,本件裁決の取消訴訟において,原告の退去強制事由(入管法24条2号)の不存在の違法を主張することができる。

イ 外国人に対していったん上陸許可処分がされた場合には,その後入国管理局の判断で自由に出国を強要することはできないから,異議の申出に対する裁決に係る判断が行政庁の自由裁量にゆだねられていると解することはできない。

そして,前記(1)(原告の主張)のとおり,本件上陸許可取消処分は違法であって取り消されるべきであるから,本件上陸許可取消処分を前提として原告に不法上陸の退去強制事由(入管法24条2号)が認められるとした本件裁決は,故意又は重過失による事実誤認に基づいてされた違法なものである。

  (3) 争点(3)(原告の在留を特別に許可しなかった本件裁決の適法性)について

(被告入管局長及び被告主任審査官の主張)

原告には特別に在留を許可すべき事情は認められず,被告入管局長が原告の在留を特別に許可することなく本件裁決をしたことについて,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったとは認められないから,本件裁決は適法である。

ア 在留特別許可の拒否に係る裁決の適法性の判断基準

裁判所が,法務大臣の在留特別許可の許否に係る判断が違法であるとの評価を行うことができるのは,法務大臣がその付与された権限に明らかに背いてそれを行使したと認め得るような特別の事情がある場合に限られるというべきである。その理由は以下のとおりである。

憲法上,外国人は,本邦に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き本邦に在留することを要求する権利を保障されているものでもない(最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照。以下,この最高裁判決を「昭和53年最判」という。)ことからすれば,入管法50条1項の在留特別許可を与えるか否かは,法務大臣の自由裁量にゆだねられているものと解すべきである。

そして,法務大臣は,在留特別許可の許否を判断するに当たって,当該外国人の個人的事情のみならず,その時々の国内の政治,経済,社会等の諸事情,外交政策,当該外国人の本国との外交関係等の諸般の事情を総合的に考慮すべきであり,しかも,在留特別許可は,入管法24条各号所定の退去強制事由に該当する容疑者に対して特に在留を認める処分であり,当該外国人に申請権が認められておらず,また,在留期間の更新については,「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」(入管法21条3項)に許可することができるとされているのに対し,在留特別許可については,単に「特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」(入管法50条1項3号)に許可することができるとのみ規定され,何ら具体的に要件が規定されていない。そうすると,法務大臣の在留特別許可の許否に係る裁量権の範囲は,在留期間の更新許可の許否に係る裁量権の範囲に比して格段に広範なものと解すべきである。

よって,在留特別許可の許否に係る裁量権の逸脱又は濫用の有無については,在留期間の更新に係る裁量権の逸脱又は濫用の有無の判断基準である,その判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等によりその判断が全くの事実の基礎を欠くかどうか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうか,という昭和53年最判の基準よりもさらに厳格な基準によって判断すべきである。

イ 前記(1)(被告らの主張)で述べたとおり,原告は,上陸許可を受けずに本邦に上陸したのであるから,入管法24条2号(不法上陸)の退去強制事由があり,原則として我が国から退去強制されるべき者である。

ウ 原告の入国態様は悪質であり,また,原告の入国目的は不当である。

前記(1)(被告らの主張)ウのとおり,原告は,虚偽の申請によってビザ認定証明書(本件証明書)の交付を受け,本件上陸申請においても虚偽の申請をして本邦に入国している。また,原告は,本件上陸申請において提出した出入国管理カードの「渡航目的」欄に「商務学習」と記載した理由について,本当の目的である丙山一夫の妻の妊娠の世話をすると書いたら入国できないと思ったなどと供述しており,原告が本邦に入国するために渡航目的を偽って申告する認識を有していたことは明らかである。そして,上記のように外国人が渡航目的を偽って申告することは,ビザ該当性の要件及び上陸許可基準適合性の要件に係る適正な判断を大いに害するものであり,我が国の出入国管理行政を混乱させる悪質な違反態様であるといわなければならない。

また,原告が殊更に入国目的を偽ったことは,不当な目的を持っていたことを推認させる。すなわち,前記(1)(被告らの主張)ウのとおり,原告は,外国人芸能人に係る要件(上陸許可基準省令「興行」欄1号イ)としての上陸許可基準適合性の要件を満たしておらず,「興行」のビザを得られる立場になかったが,原告自身,自己の興行に係る活動の能力,経歴については十分な認識を有していたとみられるから,原告が就労活動を行う目的を有していたとすれば,それは不法就労活動を行う目的を有していたということにほかならない。そして,上陸許可基準適合性の要件が認められないにもかかわらず,金銭を得るべく仕事に従事する目的で不法上陸した外国人に対して在留特別許可を付与することは,我が国の社会と経済に多大な影響が及ぶ事態を追認することにほかならず,外国人の受入れを我が国社会の健全な発展との調和の下に行うとの観点から入管法が採用した方針と正面からそごするといわざるを得ない。

以上のとおり,原告の入国目的,入国態様は,いずれも出入国管理秩序をびん乱する悪質なものである。

エ 原告は,中国で出生,生育し,教育を受けて生活してきたものであり,27歳で初めて本邦に入国するまで本邦と何らかかわりがなく(乙1),稼働能力を有する健康な成人女性である(乙5)。また,原告の両親は中国に居住している(乙7。そうすると,原告が中国に帰国して生活することに何らの支障もない。

オ 原告は,本邦に不法上陸した後も不法に残留していたものであって,適法に本邦に在留していた期間は全くない。そして,不法上陸及びそれに引き続く不法残留は,入管法70条1項2号,2項による処罰の対象となる違法行為(3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は懲役若しくは禁錮及び罰金の併科)である。

カ 原告と乙原との間の婚姻関係の実態について疑義があり,出入国管理行政上保護に値するものではない。

(ア) 原告と乙原との間の婚姻関係についての両名の各供述が食い違っている。

a 原告と乙原とが婚姻に至った経緯について

原告は,乙原と初めて出会ったのは平成15年のクリスマスで丙山一夫が自宅に乙原を招いたときである,その日は原告と丙山一夫の2人で中華料理を作った,乙原が丙山一夫の家に来たのは午後3時から午後5時ころである,原告,乙原,丙山一夫,丙山一夫の妻丁川葉子の4人で食事をした,1,2時間ほどして原告以外の3人はご飯を食べに出かけ,原告は丙山一夫の家で留守番をして食事の後片付けをしていた,などと供述している(乙7,8,16)のに対して,乙原は,原告と始めて出会ったのは平成15年の12月の終わりころである,その日の夕方丙山一夫と心斎橋のデパートの近くで待ち合わせをしたところ,丙山一夫と原告が丙山一夫の運転する車で現れた,3人は丙山一夫の車で道頓堀にある羊の肉を食べさせる飲食店に行きそこで原告を紹介された,飲食店に着いてから互いに自己紹介した,その店以外の飲食店には行かなかった,などと供述している(乙18)。

上記の原告と乙原の各供述は,原告と乙原とが初めて知り合ったとする日から1年も経っていないにもかかわらず,真に経験したものであればおよそ間違うことのないような印象的な事実について,大きな食違いをみせており,いずれも信用することができない。この点,原告は,本人尋問において,従前の供述を翻し,乙原と初めて会ったのは平成15年12月のクリスマスではあるが,場所は中華料理の羊肉屋であり,丙山一夫の妻は同席しなかった,などと供述しているが,前記の各供述の内容から変遷していること等からすれば,原告の本人尋問における供述を信用することもできない。

b 原告と乙原が同居するに至る経緯やその同居実態等について

原告は,乙原との最初のデートは乙原が自分の家に来てどこにも出かけなかった,平成16年の1月ころに乙原が当時1人で住んでいたマンションに泊まりに行くようになり,そのころ乙原と肉体関係を持った,島町の乙原の部屋には1週間に1回か2回行っていた,などと供述している(乙5,7,8,16,原告本人)のに対して,乙原は,原告との最初のデートは海遊館に行った,原告が家に泊まりに来るようになったのは平成16年3月か4月ころであって1月や2月ではない,島町の部屋に原告と泊まったことはない,などと供述している(乙18,証人乙原)。

上記の原告と乙原の各供述は,原告と乙原とが初めて知り合ったとする日から1年も経っていないにもかかわらず,真に経験したものであればおよそ間違うことのないような印象的な事実や,真正な婚姻関係に基づいて真実同居していたのであればおよそ間違うことのないような重要な事実について,大きな食違いを見せており,いずれも信用することができない。

また,朝食に関する原告と乙原の各供述が大きく食い違っている(乙16,17,証人乙原,原告本人)ことも,看過し得ない。

c 乙原の借金について

乙原は700万ないし800万円もの借金があると供述している(乙17,18)のに対し,原告は乙原に借金はないと供述している(乙7,8,16)ところ,夫に多額の借金があることを妻が知らないというのは通常の夫婦では考えられない。

(イ) 原告と乙原との間で,実質的な婚姻関係を築き上げるための十分な意思疎通を図ることができたとは考え難い。

すなわち,原告と乙原は,いずれも,初めて出会った日以外は2人きりであったと供述しているが,乙原は,中国語を理解できず,会話では中国語の単語を一言二言用いることすらできないことを認めており(証人乙原),原告も,平成15年12月末の時点では,日本語を少し聞き取ることができるが,話すことはできなかったと供述している(乙8。なお,原告は,本人尋問の時点では日本語を用いることができたが,その時点では,日本で2年間生活した経験を有しており日本語が上達しているのは当然であることからすれば,乙8の供述の信用性は損なわれない。)。

(ウ) たとい原告と乙原とで一定期間同居した事実があったとしても,前記(ア),(イ)のとおり,原告と乙原が初めて出会った状況,両名が同居するに至る経緯等に関する両名の供述が著しく食い違っている上,両名が十分な意思疎通を図ることができたとも考え難いことからすれば,それが原告と乙原との間の真正な婚姻関係の事実を裏付けるものであると評価することはできない。

(エ) 乙原の婚姻歴等は,本件の原告と乙原との間の婚姻関係が実態を伴わないものであることを強く推認させる。

すなわち,乙原は,日本人と離婚した後,短期間に外国人との婚姻及び離婚を繰り返し(前記前提となる事実等(1)イ(イ)参照),しかも,いずれの外国人とも,同女らが在留特別許可を得てから2か月余りというごく短期間を経た後に離婚している(乙25)。そうすると,乙原は,何らかの利益を得るために,外国人に在留特別許可を得させるべくして偽装結婚に加担していたとみるのが自然である。

この点につき,乙原は,いずれの外国人も借金だらけでばくちをするから離婚した旨供述している(証人乙原)が,同一人において,婚姻関係にあった外国人が在留特別許可を得たごく短期間後に離婚することが2度もあったという偶然起こるとは考え難い事実の理由が,いずれも同じものであったというのは極めて不自然であって,上記の供述は信用することはできない。

(オ) 乙原は多くの点で虚偽の供述をしている。

a 乙原は,中国の領事館等に原告との婚姻の事実を知らせなかった理由について,そのようなことをするとは知らなかった,以前タイ国籍を有する女性と婚姻した際に領事館に婚姻を申し出た事実はない,などと供述している(乙17,証人乙原)が,実際には,乙原は,同女と婚姻した際に領事館に婚姻の事実を申し出ている(乙29)のであって,乙原の上記供述はあまりに不合理である。

b 乙原は,丙山一夫が原告との結婚のお祝いをしてくれた,その場所は家であり,その席には丙山一夫,丙山一夫の妻,丙山一夫の妻の妹がいた,その日以外に丙山一夫からお祝いをしてもらった心当たりがない,などと供述している(証人乙原)が,丙山一夫は,原告と乙原との結婚祝いの場所は,難波のすし屋であった,その席には丙山一夫と丙山一夫の妻がいたが,丙山一夫の妻の妹はいなかった,などと供述しており (証人丙山一夫),両名の供述が食い違っているが,原告と乙原とが真実婚姻関係を結び,丙山一夫ら家族がそれを祝ったという事実があったとすれば,それを実際に体験した乙原と丙山一夫との間で上記のような食違いが生じるとは考え難い。

c 乙原は,原告と夫婦になろうとした時期について,平成16年の3月くらいである旨供述しながら,その場所,内容については忘れた旨を供述している(証人乙原)が,婚姻の約束をした事実とその時期については覚えていながら,その場所と内容について全く覚えてないというのは不自然である。

d 自己の就業状況に関する乙原の供述(乙17,18)は他の証拠(乙20,21)と食い違う点があり,信用することができない。

e 自己の借金の原因に関する乙原の供述(甲17,証人乙原)は,従前の供述(乙30)から変遷しており,故意に虚偽の供述をしているというべきである。

(カ) 以上によれば,原告と乙原との間の婚姻関係は社会生活上の実態的基礎を欠いていたものと評価せざるを得ず,その婚姻は出入国管理行政上保護に値するものではないものというべきである。

なお,原告は,原告と乙原の間の婚姻関係に実態があれば必ず在留特別許可を受けることができるということを前提としているようである。しかし,我が国に不法に残留する外国人が日本人と婚姻したとしても,そのことのみによって,不法残留という違法状態が治ゆされたり,あるいは在留特別許可の許否に当たり直ちに特別の考慮をすべきものとなるものではないのであって,原告の婚姻の事実は,在留特別許可の許否に当たりその内容に応じて有利にしんしゃくされるべき一事情にすぎないものというべきである。

キ 以上によれば,法律上我が国から退去強制されるべき原告について,なおも我が国での在留を認めなければならない積極的な事情を認めることはできない。したがって,被告入管局長が,原告の在留を特別に許可することなく本件裁決をしたことについて,その付与された権限に背いてこれを行使したと認めうる特段の事情がないことは明らかであるから,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったとは認められない。

(原告の主張)

原告と乙原との間の婚姻関係は実態を伴うものであって,原告には特別に在留を許可すべき事情は認められるから,原告の在留を特別に許可しなかった本件裁決は,違法である。

ア 外国人に対していったん上陸許可処分がされた場合には,その後入国管理局の判断で自由に出国を強要することはできないから,異議の申出に対する裁決に係る判断が行政庁の自由裁量にゆだねられていると解することはできない。

イ 原告は,本邦入国時に足をけが(骨折)しており,直ちに舞踊活動に着手することが困難であったため,足のけがを治すために親戚である丙山一夫を頼ってしばらく養生生活をしていたところ,その養生中に日本人の乙原と知り合い,同人に恋愛感情を抱いて交際を続け,その後同人と実質的に夫婦となって婚姻をしたのであって,原告と乙原との間の婚姻関係は実態を伴うものである。

ウ 乙原の親族から原告代理人にあてた手紙(甲11ないし13)の記載からすれば,原告と乙原とは真実婚姻しており,原告は乙原の親族と良好な関係を保っていたことは明らかである。

エ 被告入管局長及び被告主任審査官の主張に対する反論

(ア) 被告入管局長及び被告主任審査官は,原告と乙原が出会った時期等について両名の記憶が違っているのは不自然であることや,原告と乙原は言葉で意思疎通を図ることができないことなどを挙げ,原告と乙原との間の婚姻関係が実態を伴うものであるか疑問があるなどと主張する。

しかし,夫婦間や恋愛中の男女においても,婚姻前の最初のデートを誘ったのはどちらか,そのデートの場所がどこであるか,最初に一緒に食べた食事は何であったか,宿泊した場所はどこであったか,などといったことについて記憶を異にすることはよくあることであるし,また,愛し合った男女の間では,片言の単語と身振り手振りで十分気持ちは通じ合うものである。そして,原告は片言程度であれば日本語を理解することができた。

そうすると,被告入管局長及び被告入国審査官の上記主張をもって,原告と乙原との間の婚姻関係が実態を伴わないものであるということはできない。

(イ) 被告入管局長及び被告主任審査官は,乙原の婚姻歴等について疑問を呈している。しかし,(1)乙原の1回目の婚姻関係については,婚姻が昭和61年12月,離婚が平成7年3月であり,その間約10年弱の間婚姻関係が継続していたし,(2) 乙原の2回目の婚姻関係については,婚姻が平成9年1月,離婚が平成10年9月であり,その間約1年8か月間婚姻関係が継続しているのであって,いずれの婚姻関係も相当長期間にわたる真実のものであるというべきである。そして,現在の日本社会において,離婚をすることは決して不自然なものではないし,それが複数回あることについても同様である。

(ウ) 被告入管局長及び被告主任審査官は,原告の夫である乙原に借金がありながら,妻である原告がこれを知らないのは不自然であると主張する。しかし,乙原が返済義務を負っているのは,自分自身の借金ではなく,別れた妻の借金を本人に代わって支払うという債務引受あるいは保証契約に基づく債務であり,自ら借り入れて費消したことと人の借金を代わりに支払うことでは社会的評価は全く異なるのであるから,原告が乙原の上記返済義務を知らなかったとしても,何ら不自然なことではない。

(エ) 被告入管局長及び被告主任審査官は,その他原告と乙原との間の婚姻関係の実態について疑問を呈しているが,その婚姻の偽装性を裏付ける具体的事実は全く存在しない。

オ 以上のとおり,原告と乙原との婚姻関係は実態を伴うものであるから,それを無視して原告の在留を特別に許可しなかった本件裁決は,違法である。

(4) 争点(4)(本件退令発付処分の適法性)について

(被告主任審査官の主張)

退去強制令書発付処分に主任審査官の裁量を入れる余地はないことからすれば,本件裁決が適法である以上,本件退令発付処分も適法である。

(原告の主張)

本件上陸許可取消処分及び本件裁決がいずれも取り消されるべきである以上,これらを前提とする本件退令発付処分も取り消されるべきである。
第3 当裁判所の判断

 1 争点(1)(本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動の虚偽性)について

(1) 「申請に係る本邦において行おうとする活動」(入管法7条1項2号)の虚偽性の意義について

ア ビザ制度について

本邦に在留する外国人は,入管法その他の法律に特別の規定がある場合を除き,それぞれ,当該外国人に対する上陸許可若しくは当該外国人の取得に係るビザ又はそれらの変更に係るビザをもって在留するものとされ(入管法2条の2第1項),ビザは,入管法別表第一又は別表第二の上欄に掲げるとおりとされ,別表第一の上欄のビザをもって在留する者は当該ビザに応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる活動を行うことができ,別表第二の上欄のビザをもって在留する者は当該ビザに応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる身分若しくは地位を有するものとしての活動を行うことができ(入管法2条の2第2項),本邦に在留する外国人が在留することのできる期間(在留期間)は,各ビザについて,法務省令で定めるものとされ,この場合において,外交,公用及び永住者のビザ以外のビザに伴う在留期間は,3年を超えることができない(入管法2条の2第3項)。

そして,入管法別表第一の一の表,二の表及び五の表の上欄のビザをもって在留する者は,入管法19条2項の法務大臣の許可を受けて行う場合を除き,当該ビザに応じこれらの表の下欄に掲げる活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を行ってはならず(入管法19条1項1号),また,入管法別表第一の三の表及び四の表の上欄のビザをもって在留する者は,入管法19条2項の法務大臣の許可を受けて行う場合を除き,収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を行ってはならない(入管法19条1項2号)のであって,これに違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を行った者は,刑事罰(1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは20万円以下の罰金又はその懲役若しくは禁錮及び罰金の併科)の対象とされ(入管法73条),さらに,収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専ら行っていると明らかに認められる者については,更に重い刑事罰(3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又はその懲役若しくは禁錮及び罰金の併科)の対象となる(入管法70条1項4号)とともに,本邦からの退去を強制することができる(入管法24条4号イ)こととなる。

ビザを有する外国人は,申請をすることにより,その者の有するビザ(これに伴う在留期間を含む。)の変更を受けることができ(入管法20条1項,2項),また,申請をすることにより,現に有するビザを変更することなく,在留期間の更新を受けることができる(入管法21条1項,2項)が,その者が,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に在留することとなった場合には,本邦からの退去を強制することができる(入管法24条4号ロ)ことになる。

イ 上陸許可制度について

本邦に上陸しようとする外国人は,原則として有効な旅券で日本国領事館等の査証を受けたものを所持しなければならず(入管法6条1項),かつ,その者が上陸しようとする出入国港において,入国審査官に対し上陸の申請をして,上陸のための審査を受けなければならない(同条2項)ところ,その上陸の申請をしようとする外国人は,別紙様式1による書面1通を入国審査官に提出しなければならず(入管法6条2項,出入国管理及び難民認定法施行規則(平成16年法務省令第5号による改正前のもの。以下「入管法施行規則」という。)5条1項,別記第6号様式),また,本邦に上陸しようとする外国人でビザ認定証明書(入管法7条の2第1項)を提出しないものは,入管法7条2項の規定により同条1項2号に定める上陸のための条件に適合していることを自ら立証しようとする場合には,当該外国人が本邦において行おうとする活動が該当する入管法施行規則別表第三の中欄に掲げる活動に応じ,それぞれ同表の下欄に掲げる資料(入管法施行規則別表第三によれば,入管法別表第一の二の表の興行の項の下欄に掲げる活動については,一 演劇,演芸,演奏,スポーツ等の興行に係る活動を行おうとする場合においては,イ 経歴書並びに活動に係る経歴及び資格を証する公的機関が発行した文書,ロ 招へい機関の商業・法人登記簿謄本,損益計算書の写し及び従業員名簿,ハ 興行を行う施設の概要を明らかにする資料,ニ 招へい機関が当該興行を請け負っているときは請負契約書の写し,ホ 活動の内容,期間,地位及び報酬を証する文書であり,二芸能活動を行おうとする場合においては,イ 芸能活動上の業績を証する資料,ロ 活動の内容,期間及び報酬を証する文書である。)及びその他参考となるべき資料各1通を提出しなければならない(入管法施行規則6条)。

そして,前記第2の1(1)のとおり,入国審査官は,入管法6条2項の申請があったときは,当該外国人が入管法7条1項各号に掲げる上陸のための条件に適合しているかどうかを審査しなければならず(入管法7条1項),その上陸のための条件の一つとして,申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく,入管法別表第一の下欄に掲げる活動又は入管法別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動のいずれか(入管法別表第一の二の表の興行の項の下欄は,興行のビザで本邦において行うことができる活動を,演劇,演芸,演奏,スポーツ等の興行に係る活動又はその他の芸能活動(同表の投資・経営の項の下欄に掲げる活動を除く。)と規定している。)に該当し,かつ,入管法別表第一の二の表及び四の表の下欄に掲げる活動を行おうとする者については我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案して法務省令で定める基準(入管法別表第一の二の表の興行の項の下欄に掲げる活動については,上陸許可基準省令がその「興行」欄において,前記第2の1(1)のとおりその基準を規定している。)に適合すること,が要求されている(入管法7条1項2号)。そして,入管法7条1項の審査を受ける外国人は,同項に規定する上陸のための条件に適合していることを自ら立証しなければならない(入管法7条2項)。

なお,法務大臣は,本邦に上陸しようとする外国人から,あらかじめ申請があったときは,当該外国人が入管法7条1項2号に掲げる条件に適合している旨の証明書(ビザ認定証明書)を交付することができ(入管法7条の2第1項。なお,同項に規定する法務大臣の権限は,入管法施行規則61条の2第1号により,地方入国管理局長に委任されている。),ビザ認定証明書の交付を申請しようとする者は,別紙様式2による申請書1通を地方入国管理局に出頭して提出しなければならず(入管法7条の2第1項,入管法施行規則6条の2第1項,別記第6号の3様式),その申請に当たっては,写真2葉及び当該外国人が本邦において行おうとする活動が該当する入管法施行規則別表第三の中欄に掲げる活動に応じ,それぞれ同表の下欄に掲げる資料(入管法施行規則別表第三によれば,入管法別表第一の二の表の興行の項の下欄に掲げる活動については,一 演劇,演芸,演奏,スポーツ等の興行に係る活動を行おうとする場合においては,イ 経歴書並びに活動に係る経歴及び資格を証する公的機関が発行した文書,ロ 招へい機関の商業・法人登記簿謄本,損益計算書の写し及び従業員名簿,ハ 興行を行う施設の概要を明らかにする資料,ニ 招へい機関が当該興行を請け負っているときは請負契約書の写し,ホ活動の内容,期間,地位及び報酬を証する文書であり,二 芸能活動を行おうとする場合においては,イ 芸能活動上の業績を証する資料,ロ 活動の内容,期間及び報酬を証する文書である。)及びその他参考となるべき資料各1通を提出しなければならない(入管法施行規則6条の2第2項)。そして,入管法施行規則6条の2第1項の申請があった場合には,地方入国管理局長は,当該申請を行った者が,当該外国人が入管法7条1項2号に掲げる上陸のための条件に適合していることを立証した場合に限り,ビザ認定証明書を交付するものとし,ただし,当該外国人が入管法7条1項1号,3号又は4号に掲げる条件に適合しないことが明らかであるときは交付しないことができる(入管法施行規則6条の2第5項)。ビザ認定証明書の交付を受けている外国人は,上陸のための条件のうち,入管法7条1項2号に規定するビザに係る条件については,原則として,ビザ認定証明書を提出することによりその立証があったものとして扱われる(入管法施行規則6条)。

入国審査官は,審査の結果,外国人が入管法7条1項に規定する上陸のための条件に適合していると認定したときは,当該外国人の旅券に上陸許可の証印をしなければならず(入管法9条1項),その証印をする場合には,入国審査官は,原則として,当該外国人のビザ及び在留期間を決定し,旅券にその旨を明示しなければならない。そして,外国人は,原則として上陸許可の証印を受けなければ上陸してはならない(同条5項)。

ウ 以上で説示したところの入管法の各規定に照らすと,入管法は,個々の外国人が本邦において行おうとする活動に着目し,一定の活動を行おうとする者のみに対して,その活動内容に応じたビザを取得させて本邦への在留を認め,そのビザの取得を入国審査官による上陸許可処分にかからせているということができる。

エ 上陸の申請に係る本邦において行おうとする活動が興行に係る活動である場合における上陸のための条件について

本邦において演劇,演芸,演奏,スポーツ等の興行に係る活動を行おうとする外国人が,入国審査官に対して上陸の申請をする場合には,(1)氏名,国籍,生年月日,性別,住所,職業,日本の連絡先,旅券番号,航空機便名・船名,日本滞在予定期間,乗機地,渡航目的等を各記載した書面を入国審査官に提出しなければならない(入管法施行規則5条1項,別記第6号様式)とともに,(2)経歴書並びに活動に係る経歴及び資格を証する公的機関が発行した文書,招へい機関の商業・法人登記簿謄本,損益計算書の写し及び従業員名簿,興行を行う施設の概要を明らかにする資料,招へい機関が当該興行を請け負っているときは請負契約書の写し,活動の内容,期間,地位及び報酬を証する文書及びその他参考となるべき資料を提出しなければならず(入管法施行規則6条,別表第三),その申請を受けた入国審査官は,上記(1),(2)の各資料に基づいて,当該外国人が入管法7条1項各号に掲げる上陸のための条件,すなわち,(ア)申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでないこと,(イ)申請に係る本邦において行おうとする活動が演劇,演芸,演奏,スポーツ等の興行に係る活動に該当すること,(ウ) 申請に係る本邦において行おうとする活動が上陸許可基準省令の「興行」欄において定められている基準に適合すること,に適合しているかどうかをそれぞれ審査し(入管法7条1項),その結果,当該外国人が上記の各条件のいずれにも適合していると認定したときは,当該外国人の旅券にビザ及び在留期間を明示して上陸許可の証印をする(入管法9条1項,3項)こととされているのであって,この上陸許可の証印を受けない限り,外国人は原則として上陸することはできない(同条5項)。

また,本邦において演劇,演芸,演奏,スポーツ等の興行に係る活動を行おうとする外国人が,法務大臣(法務大臣の権限の委任を受けた地方入国管理局長を含む。)に対して,上陸の申請に先立ってビザ認定証明書の交付申請をする場合には,(1)国籍,氏名,性別,生年月日,出生地,配偶者の有無,職業,本国における居住地,日本における連絡先,旅券番号,旅券の有効期限等,入国目的(「興行」を選択する。),入国予定年月日,上陸予定地,滞在予定期間,同伴者の有無,査証申請予定地,過去の出入国歴の有無及び回数,在日親族,興行の内容(歌謡,舞踊,演奏,演劇,演芸,スポーツ,その他のいずれかから選択する。),雇用契約期間,報酬,グループ名,招へい者又は雇用者(名称,代表者名,所在地,電話番号,資本金,年間売上金額(直近年度),法人税納税額,従業員数,招へい担当者氏名),芸能・スポーツ歴,出演先店舗数,今後の出演先(日程,名称,代表者名,所在地,電話番号,従業員数,月間売上金額,舞台面積,控室面積),申請の提出者(氏名,本人との関係,住所,電話番号)等を各記載した申請書を地方入国管理局に出頭して提出する(入管法施行規則6条の2第1項,別記第6号の3様式)とともに,(2)経歴書並びに活動に係る経歴及び資格を証する公的機関が発行した文書,招へい機関の商業・法人登記簿謄本,損益計算書の写し及び従業員名簿,興行を行う施設の概要を明らかにする資料,招へい機関が当該興行を請け負っているときは請負契約書の写し,活動の内容,期間,地位及び報酬を証する文書及びその他参考となるべき資料を提出しなければならず(入管法施行規則6条の2第2項,別表第三),その申請を受けた法務大臣は,上記(1),(2)の各資料に基づいて,当該外国人が入管法7条1項2号に掲げる上陸のための条件(前記(ア)ないし(ウ)の各要件)に適合しているかどうかをそれぞれ審査し,その結果,当該外国人が上記の各条件のいずれにも適合していると認定したときは,原則として,当該外国人が入管法7条1項2号に掲げる条件に適合している旨のビザ認定証明書を交付することができ(入管法7条の2第1項),このビザ認定証明書を提示する外国人は,前記のとおり,原則として,入国審査官から上陸のための条件のうちビザに係る条件(前記(ア)ないし(ウ)の各要件)についての立証があったものとして扱われる。

他方で,前記(ウ)の条件に係る上陸許可基準省令の「興行」欄において定められている基準は,前記第2の1(1)のとおり,申請人が演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行に係る活動に従事しようとする場合には,次の(1)ないし(3)の場合,すなわち,(1)申請人が我が国の国若しくは地方公共団体の機関,我が国の法律により直接に設立された法人若しくは我が国の特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人又は学校教育法に規定する学校,専修学校若しくは各種学校に招へいされる場合,(2)申請人が我が国と外国との文化交流に資する目的で国,地方公共団体又は独立行政法人の資金援助を受けて設立された機関に招へいされる場合,(3)申請人が外国の情景又は文化を主題として観光客を招致するために外国人による演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行を常時行っている敷地面積10万平方メートル以上の施設を運営する機関に招へいされる場合で,当該施設において当該興行に係る活動に従事しようとするとき,を除き,下記のいずれにも該当していることとされている。

イ 申請人が従事しようとする活動について次のいずれかに該当していること。ただし,当該興行を行うことにより得られる報酬の額(団体で行う興行の場合にあっては当該団体が受ける総額)が1日につき500万円以上である場合は,この限りでない。

(1) 外国の国若しくは地方公共団体又はこれに準ずる公私の機関が認定した資格を有すること。

(2) 外国の教育機関において当該活動に係る科目を2年以上の期間専攻したこと。

(3) 2年以上の外国における経験を有すること。

ロ 申請人が次のいずれにも該当する本邦の機関に招へいされること。ただし,主として外国の民族料理を提供する飲食店(風営法2条1項1号又は2号に規定する営業を営む施設を除く。)を運営する機関に招へいされる場合で,当該飲食店において当該外国の民族音楽に関する歌謡,舞踊若しくは演奏に係る活動に従事しようとするときは,この限りでない。

(1) 外国の興行に係る業務について通算して3年以上の経験を有する経営者又は管理者がいること。

(2) 5名以上の職員を常勤で雇用していること。

(3) 申請人を含めた当該機関において興行に係る活動に従事する興行のビザをもって在留する者の人数が,これらの者が従事する興行を管理する常勤の職員で,かつ,当該機関に引き続き6月以上雇用されている者1名について10名以内であること。ただし,当該興行が興行場法1条2項に規定する興行場営業が営まれている施設において行われる場合は,この限りでない。

(4) 当該機関の経営者又は常勤の職員が入管法73条の2の罪又は売春防止法6条若しくは12条の罪により刑に処せられたことがないこと。ただし,その刑の執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過している場合は,この限りでない。

(5) 当該機関の経営者又は常勤の職員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で風営法施行規則5条各号に規定する罪のいずれかに当たるものを犯したことがないこと。

ハ 申請人の出演する施設が次に掲げるいずれの要件にも適合すること。ただし,興行に係る活動に従事する興行のビザをもって在留する者が当該施設において申請人以外にいない場合は,(6)及び(7)に適合すること。

(1) 不特定かつ多数の客を対象として外国人の興行を行う施設であること。

(2) 風営法2条1項1号又は2号に規定する営業を営む施設である場合は,次に掲げるいずれの要件にも適合していること。

(i) 専ら客の接待に従事する従業員が5名以上いること。

(ii) 興行に係る活動に従事する興行のビザをもって在留する者が客の接待に従事するおそれがないと認められること。

(3) 13平方メートル以上の舞台があること。

(4) 9平方メートル(出演者が5名を超える場合は,9平方メートルに5名を超える人数の1名につき1.6平方メートルを加えた面積)以上の出演者用の控室があること。

(5) 当該施設の従業員の数が5名以上であること。

(6) 当該施設を運営する機関の経営者又は当該施設に係る業務に従事する常勤の職員が入管法73条の2の罪又は売春防止法6条若しくは12条の罪により刑に処せられたことがないこと。ただし,その刑の執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過している場合は,この限りでない。

(7) 当該施設を運営する機関の経営者又は当該施設に係る業務に従事する常勤の職員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で風営法施行規則5条各号に規定する罪のいずれかに当たるものを犯したことがないこと。

ニ 申請人が月額20万円以上の報酬を受けること。

オ 以上のとおり,入管法は,個々の外国人が本邦において行おうとする活動に着目し,一定の活動を行おうとする者のみに対して,その活動内容に応じたビザを取得させて本邦への在留を認め,そのビザの取得を入国審査官による上陸許可処分にかからせており,「興行」のビザについては,本邦において行うことができる活動を演劇,演芸,演奏,スポーツ等の興行に係る活動又はその他の芸能活動と規定した上,上陸のための条件として,申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく,入管法別表第一の下欄に掲げる活動(演劇,演芸,演奏,スポーツ等の興行に係る活動又はその他の芸能活動)に該当し,かつ,上陸許可基準省令の「法別表第一の二の表の興行の項の下欄に掲げる活動」の下欄の基準に適合することを規定している。そして,上陸許可基準省令の該当欄においては,申請人が演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行に係る活動に従事しようとする場合,申請人が演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行に係る活動以外の興行に係る活動に従事しようとする場合及び申請人が興行に係る活動以外の芸能活動に従事しようとする場合に区分した上,申請人が演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行に係る活動に従事しようとする場合については,申請人が我が国の国若しくは地方公共団体の機関,我が国の法律により直接に設立された法人若しくは我が国の特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人(その趣旨からしていわゆる特殊法人を意味するものと解される。)又は学校教育法に規定する学校,専修学校若しくは各種学校に招へいされる場合,申請人が我が国と外国との文化交流に資する目的で国,地方公共団体又は独立行政法人の資金援助を受けて設立された機関(いわゆる文化交流団体)に招へいされる場合,申請人が外国の情景又は文化を主題として観光客を招致するために外国人による演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行を常時行っている敷地面積10万平方メートル以上の施設を運営する機関(いわゆるテーマパーク)に招へいされる場合で,当該施設において当該興行に係る活動に従事しようとするとき,を除き,申請人に係る要件,招へい機関に係る要件,出演先機関に係る要件及び報酬に係る要件について前記のとおりそれぞれ詳細な基準を定めている。これは,「興行」のビザで本邦において演劇,演芸,演奏,スポーツ等の興行に係る活動又はその他の芸能活動を行おうとする外国人は,本邦において当該活動を行うことにより一定の報酬を受けようとする者であることに照らし,労働市場の安定等の見地から,我が国の産業及び国民生活に与える影響等にかんがみ,当該外国人がその報酬を受けるにふさわしい当該活動に関する能力,資質を有していること等を要件として規定したものであり,とりわけ,演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行に係る活動に従事しようとする外国人の場合については,当該活動内容にかんがみ,以上の見地から,当該外国人自身が当該活動によって相応の対価が得られる程度の当該活動に関する能力,資質を有していることに加えて,当該外国人を招へいする機関が当該外国人の当該活動に係る管理責任能力を有していること,当該外国人の出演する施設が当該外国人が当該活動を十分に行うことができる程度の規模,実績を有していること,等を要件として定めることにより,これらの外国人の出入国の適正な管理を図ろうとしたものであると解される。そして,前記のとおり,入管法施行規則6条は,当該外国人は,経歴書並びに活動に係る経歴及び資格を証する公的機関が発行した文書,招へい機関の商業・法人登記簿謄本,損益計算書の写し及び従業員名簿,興行を行う施設の概要を明らかにする資料,招へい機関が当該興行を請け負っているときは請負契約書の写し,活動の内容,期間,地位及び報酬を証する文書及びその他参考となるべき資料を提出することにより,上陸のための条件に適合していることを立証するものとしているものと解される。

「興行」のビザで本邦に上陸しようとする外国人の上陸のための条件に関する以上のような法令の規定等にかんがみると,入管法7条1項2号の「申請に係る本邦において行おうとする活動」とは,当該活動が「興行」のビザに係る活動である場合については,当該外国人が本邦において従事しようとする個別具体的な活動をいうものと解するのが相当であり,とりわけ,当該活動が演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行に係る活動である場合については,本邦の特定の機関に招へいされ,特定の施設に出演して報酬を受ける個別具体的な活動をいうものと解するのが相当である。

力 以上の見地に立って,本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動が虚偽でないかどうかについて,以下検討する。

(2) 前記前提となる事実等,証拠(甲8ないし10,15,17,18,乙1ないし3,5,7,8,12ないし16,23,証人丙山一夫,証人乙原,原告本人。ただし,認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(なお,前記前提となる事実等を適宜含めて記載する。)

ア 原告は,1975年(昭和50年)11月26日に中国上海市において出生し,江西省黍川県××子弟小中学校及び上海市▽▽□学校を卒業後,2001年(平成13年)ころから2003年(平成15年)ころまで,中国の上海や山東省済南において,歌手等のアルバイトをしたことがあったが,劇団に所属して歌手やダンサー等の活動をしたことはなかった。(乙5,原告本人)

イ 原告は,2003年(平成15年)ころ,中国において,アルバイト先の客の紹介で芸能関係のプロダクションの面接を受けた。(原告本人)

ウ(ア) 原告は,平成15年7月30日,原告の招へい会社である△△コーポレーション代表取締役戊谷正一を代理人として,広島入国管理局において,法務大臣に対してビザ認定証明書の交付申請(本件交付申請)をした。

(イ) 本件交付申請の際に提出された原告のビザ認定証明書交付申請書の記載は,以下のとおりであった。(乙2)

(ウ) 本件交付申請の際,法務大臣に対して,以下の内容が記載され,かつ,その内容に誤りがないとして「甲野花子」名義の署名押印及び済南新感覺藝術團の団長の署名押印がされている2003年(平成15年)5月22日付け履歴書(以下「本件履歴書」という。)が提出された。しかし,前記アのとおり,本件履歴書に記載されている原告の学歴及び済南新感覺藝術團への出演歴に係る記載は誤りであり,かつ,「甲野花子」の署名押印は原告の自署押印によるものではなかった。(乙12,原告本人)

(エ) また,本件交付申請の際,法務大臣に対して,原告が済南新感覺藝術團に1999年(平成11年)10月から舞踊演員として在職していることを同芸術団が証明する旨の2003年(平成15年)5月22日付け在職証明書(以下「本件在職証明書」という。)が提出された。しかし,前記アのとおり,原告は,平成15年当時,済南新感覺藝術團には在職していなかった。(乙13,原告本人)

(オ) さらに,本件交付申請の際,法務大臣に対して,原告が1999年(平成11年)10月から現在までの間濟南新感覺藝術團に舞踊のタレントとして同劇場に出演していたことを証明する旨記載され,かつ,同藝術團の記名押印及び同藝術團の支配人の署名押印がされている2003年(平成15年)5月22日付け出演証明書(以下「本件出演証明書」という。)が提出された。しかし,前記アのとおり,原告は,上記の期間,濟南新感覺藝術團に舞踊のタレントとして出演したことはなかった。(乙14,原告本人)

エ 法務大臣の権限の委任を受けた広島入国管理局長は,平成15年9月50,本件交付申請をした原告代理人である△△コーポレーションに対し,ビザを「興行」とするビザ認定証明書(本件認定証明書)を交付した。△△コーポレーションは,同月6日ころ,本件認定証明書を契約している中国のエージェントに送付し,原告を面接した中国のプロダクションは,同年10月ころ,原告に本件認定証明書を交付した。(乙7,23)

オ 原告は,平成15年8月か9月ころ,中国において,左足小指骨折のけがをしてハイヒールを履くことができない状態となったが,そのころ,足をけがしたが日本に行くつもりである旨を中国のプロダクションに連絡した。なお,原告は,その後本邦に上陸するまで,中国のプロダクションに連絡を取ったことはなかった。(甲8ないし10,18,乙6,23,原告本人)

力 中国のエージェントは,平成15年10月下旬ころ,△△コーポレーションに対し,原告が左足小指骨折のけがをして入院したので入国を待ってくれるよう伝えた。(乙23)

キ 原告は,平成15年11月8日,関西国際空港に到着し,大阪入管関西空港支局入国審査官に対し,本件認定証明書を提出して上陸申請(本件上陸申請)を行い,同審査官から,同日付けで,ビザを「興行」,在留期間を6月とする上陸許可(本件上陸許可処分)を受け,本邦に上陸した。なお,原告は,本邦に上陸する際,渡航目的欄に商務学習などと記載した出入国記録カードを提出した。空港へは丙山一夫が迎えに来ており,原告は,上陸後,そのまま丙山一夫宅に赴き,丙山一夫宅に滞在した。(乙8,15)

ク 原告は,本邦に上陸した旨を△△コーポレーションに伝えなかったのみならず,本邦に上陸後現在に至るまで,中国のプロダクション又は△△コーポレーションと全く連絡を取らず,△△コーポレーションに赴くこともしなかった。(乙8,23,原告本人)

ケ △△コーポレーションは,中国のエージェントから連絡が来ないまま原告に係るビザ認定証明書の有効期限(平成15年12月5日)が近づいてきたことから,出演予定先(□□)代表者と相談の上,申請を取り下げることにし,中国のエージェントに対して同証明書の返納を求めたところ,原告と連絡が取れないことが判明したため,同月9日,広島入管に対し,原告を入国させると困る旨を記載した報告書を提出した。(乙23)

コ 原告は,本邦に上陸してから平成16年9月17日付け収容令書の執行により収容される時まで,本邦において歌謡や舞踊等の興行活動に従事したことはなかった。

サ 原告は,現在においても,原告の招へい機関である△△コーポレーションの名称,住所及び電話番号等の連絡先を知らない。(乙8,原告本人)

(3)ア 上記認定事実によれば,本件交付申請の際に提出された原告のビザ認定証明書交付申請書には,興行の内容が舞踊(ソロダンサー),雇用契約期間が6か月間,招へい者が広島市西区観音本町〈番地略〉所在の有限会社△△コーポレーション(代表者戊谷正一),芸能歴が3年10か月,出演先が広島市中区田中町*番**号所在の口口,出演日程が2003年(平成15年)9月19目から2004年(平成16年)3月17日などと各記載され,また,本件交付申請の際に提出された原告の履歴書(本件履歴書)には,中國濟南新感覺藝術團において,1999年(平成11年)10月から2003年(平成15年)5月22日までの3年7か月間,舞踊の職務に従事していたことなどが各記載され,本件交付申請の際に提出された原告の在職証明書(本件在職証明書)には,原告が濟南新感覺藝術團に1999年(平成11年)10月から舞踊演員として在職している旨記載され,本件交付申請の際に提出された原告の出演証明書(本件出演証明書)には,原告が1999年(平成11年)10月から本件出演証明書作成当時(2003年(平成15年)5月22日)まで濟南新感覺藝術團に舞踊のタレントとして同劇場に出演していた旨記載されており,原告は,本件履歴書,本件在職証明書及び本件出演証明書等に基づき,ビザを「興行」とするビザ認定証明書(本件認定証明書)の交付を受け,本件上陸申請の際に本件認定証明書を提出して,ビザを「興行」,在留期間を6月とする上陸許可(本件上陸許可処分)を受けたというのである。

そうすると,本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動は,原告が,広島市西区観音本町〈番地略〉所在の有限会社△△コーポレーション(代表者戊谷正一)に招へいされ,広島市中区田中町*番**号所在の口口において,平成15年9月19日から平成16年3月17日までソロダンサーとして出演して報酬月額20万円を受ける活動であると解すべきである。

イ しかるところ,前記認定事実によれば,確かに,本件上陸申請に係る招へい機関(△△コーポレーション)及び出演予定施設(口口)は実在しており,原告の上陸当時,招へい機関と出演予定施設との間において原告を舞踊家(ソロダンサー)として出演させる旨の合意が成立していた様子がうかがわれる(乙23)ものの,原告は,来日前に左足小指骨折の障害を負い,舞踊の活動に従事することが困難な状態になっていたにもかかわらず,中国のプロダクションに上陸予定日及び場所を知らせないまま,ビザ認定証明書交付申請書に記載された上陸予定港とは異なる関西国際空港に上陸し,上陸後も,招へい機関である△△コーポレーションに本邦に上陸した旨を伝えなかったばかりか,現在に至るまで,△△コーポレーションとも中国のプロダクションとも連絡を取らず,△△コーポレーションに赴くこともしていない(そもそも,原告は,招へい機関である△△コーポレーションの名称,住所及び電話番号等の連絡先さえ知らないというのである。)。のみならず,原告は,本邦に上陸してから収容される時までも,歌謡や舞踊等の興行活動に全く従事していないのであり,本邦上陸時に提出した出入国記録カードの渡航目的欄には商務学習と記載していたというのである。

そうであるとすれば,本件上陸申請当時,原告は,本件上陸申請に係る招へい機関である△△コーポレーションに招へいされた上,同社と出演予定施設である口口との間の合意に基づき,口口において舞踊家(ソロダンサー)として出演する意思を有していなかったものと認めざるを得ないから,本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動は,偽りのものであるといわざるを得ない。

(4) 原告の主張について

ア 原告は,「興行」のビザに係る「申請に係る本邦において行おうとする活動」が虚偽か否かは,当該外国人が主観的に興行活動をする目的を有していれば足り,その行動を客観化ならしめるための行動を入国後直ちにする必要はなく,当初の入国目的である興行活動に従事しなかったからといって上陸許可処分が取り消される理由はないなどと主張する。

しかしながら,前記(1)において説示したとおり,入管法7条1項2号にいう「申請に係る本邦において行おうとする活動」とは,当該活動が演劇,演芸,歌謡,舞踊又は演奏の興行に係る活動である場合については,本邦の特定の機関に招へいされ,特定の施設に出演して報酬を受ける個別具体的な活動をいうところ,前記認定のとおり,原告は,本件上陸申請当時,本件上陸申請に係る招へい機関である△△コーポレーションに招へいされて出演予定施設である口口において舞踊家(ソロダンサー)として出演する意思を有していなかったものと認められるのであるから,原告の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。

イ 原告は,足のけがが治れば招へい機関に赴いて働くつもりであったのであるから,本邦に入国した当初から,主観的に興行活動をする目的を有していたなどと主張する。

しかしながら,前記(2),(3)で認定したとおり,原告は,中国のプロダクションに上陸予定日及び場所を知らせないまま上陸し,本邦上陸時に提出した出入国記録カードの渡航目的欄に商務学習などと記載し,本邦上陸後は,本邦に上陸した旨を招へい機関である△△コーポレーションに伝えなかったばかりか,現在に至るまで中国のプロダクションとも△△コーポレーションとも連絡を取らず,△△コーポレーションに赴くことをせず,そもそも△△コーポレーションの名称,住所及び電話番号等の連絡先さえ知らないというのであり,このような原告の本邦上陸から現在に至るまでの行動経緯等からすれば,原告は招へい機関に赴いて舞踊家としての興行活動を行う意思を有していたと認めるのは困難である。のみならず,前記認定のとおり,原告は,中国において劇団に所属して歌手やダンサー等の活動をしたことはなく,せいぜい歌手のアルバイトをしたことがあったという程度であり,本邦上陸後も,歌謡や舞踊等の興行活動に全く従事していないというのであって、これらの事実からすれば,原告が本件上陸申請当時,本件上陸申請に係る招へい機関に招へいされて出演予定先(口口)において舞踊家(ソロダンサー)として出演し報酬(月額20万円)を受けるに足りる能力,資質を有していたものとも直ちに認め難い。これらに照らすと,前記認定のとおり,原告は,本件上陸申請当時,本件上陸申請に係る招へい機関である△△コーポレーションに招へいされて,出演予定先である口口において舞踊家(ソロダンサー)として出演する意思を有していなかったものと認めざるを得ないから,原告の主張はその前提において失当であって,採用の限りでない。

ウ 原告は,上陸許可取消処分に係る判断は行政庁の自由裁量にゆだねられてはいないなどと主張する。

しかしながら,前記(3)で説示したとおり,本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動は偽りのものであるといわざるを得ないから,本件上陸許可処分は,入管法7条1項2号所定の「申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく」の要件を欠き,違法であるといわざるを得ない。もっとも,本件上陸許可処分が取り消されると,原告は,処分時にさかのぼって,ビザを有しなかったことになるが,後に説示するとおり,そもそも,憲法上及び条約上,外国人には,わが国に在留する権利ないし引き続き在留し得ることを要求する権利を保障されているものではないことにもかんがみると,被告入国審査官が本件上陸許可処分を取り消したこと(本件上陸許可取消処分)は,本邦に入国し又は本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理を図るという人管法の目的に照らし,違法と解する余地はない。よって,原告の上記主張は,採用の限りでない。

(5) 以上検討したところによれば,本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動は虚偽のものであったと解すべきであるから,その余の点につき判断するまでもなく,本件上陸許可取消処分の取消しを求める原告の請求は理由がない。

 2 争点(2)(本件裁決の取消訴訟における原告の退去強制事由(入管法24条2号)の不存在の主張の許否及び原告の上記退去強制事由の存否)について

前記1において説示したとおり,本件上陸申請に係る原告の本邦において行おうとする活動は虚偽のものであって,それを前提としてされた本件上陸許可取消処分は適法であると解すべきであるから,原告の退去強制事由の不存在を理由に本件裁決の取消しを求める原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由がない。

 3 争点(3)(原告の在留を特別に許可しなかった本件裁決の適法性)について

(1) 前記第2の1(2)のとおり,法務大臣は,当該外国人に入管法24条各号所定の退去強制事由があり,入管法49条1項の異議の申出が理由がないと認める場合でも,当該外国人に特別に在留を許可すべき事情があると認めるときは,その者の在留を特別に許可することができるとされている(入管法50条1項3号)。そうすると,入管法49条1項の異議の申出には理由がない旨の法務大臣の裁決には,当該外国人が入管法24条各号所定の退去強制事由に該当する旨の判断と,当該外国人の在留を特別に許可することをしない旨の判断とが含まれているというべきである。そして,この理は,法務大臣の権限の委任を受けた地方入国管理局長が入管法49条1項の異議の申出について裁決する場合にも,異なるところはないものというべきである。

そして,前記1及び2で説示したとおり,原告は入管法24条4号イ(不法上陸)に該当すると解すベきであるから,本件裁決が違法であるか否かは,被告入管局長が原告の在留を特別に許可しなかったことについて違法があったか否かによるものというべきである。

(2)ア ところで,国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを,当該国家が自由に決定することとされている。日本国憲法22条1項も,日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり,外国人が我が国に入国することについては何ら規定していないものであり,このことは,上記の国際慣習法とその考えを同じくするものと解される。そして,市民的権利及び政治的権利に関する国際規約には,上記国際慣習法上の原則を制限する旨の規定は存在せず,かえって,同規約13条は,「合法的にこの規約の締約国の領域内にいる外国人は,法律に基づいて行われた決定によってのみ当該領域から追放することができる。」と定め,合法的に当該国家に滞在する外国人に対しても退去強制の措置をとり得ることとしていることにかんがみれば,同規約は,上記国際慣習法上の原則を当然の前提として,外国人の入国及び在留の制限に関する権限を各締約国に留保した上で制定されたものと解される。

したがって,憲法上ないし条約上,外国人は,わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものではないと解すべきである(昭和53年最判参照)。

イ 前記第2の1(2)のとおり,入管法50条1項3号は,法務大臣は,入管法49条1項の異議の申出に理由がないと認める場合でも,法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるときは,当該外国人の在留を特別に許可することができると規定している。この在留特別許可は,入管法24条各号所定の退去強制事由に該当するとされた外国人に対してその在留を特別に許可するものであって,その性質上,当該外国人の在留を特別に許可するか否かの判断は,当該外国人の個人的事情や外国人に対する人道的配慮のみならず,外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定などの国益の保持の見地に立って,当該外国人の在留中の一切の行状,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係などの諸般の事情を総合的にしんしゃくし,時宜に応じて的確に行われるべきものでなければならず,事柄の性質上,出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければ到底適切な結果を期待することができないものである。このような観点から,当該外国人の在留を特別に許可するか否かの判断における法務大臣の裁量権の範囲は広範なものとされていると解される。

上記のような当該外国人の在留を特別に許可するか否かの判断における法務大臣の裁量権の性質にかんがみると,当該外国人の在留を特別に許可しないとの法務大臣の判断は,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等によりその判断が全く事実の基礎を欠き,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるものというべきである。

そして,この理は,法務大臣の権限の委任を受けた地方入国管理局長が当該外国人の在留を特別に許可するか否かを判断する場合にも,異なるところはないものというべきである。

ウ 以上の見地に立って,被告入管局長が原告の在留を特別に許可しなかったことにつき裁量権の逸脱又はその濫用があったか否かについて,以下検討する。

(3) 前記前提となる事実等,証拠(甲1,8ないし15,17ないし20,乙1ないし5,7ないし9,12ないし21,23ないし25,29,30,証人丙山一夫,証人乙原,原告本人。ただし,認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(なお,前記前提となる事実等も適宜含めて記載する。)。

ア 乙原は,平成9年1月14日にタイ国籍を有する女性(1960年(昭和35年)生)と婚姻した。同女は平成10年7月22日に在留特別許可を受けたが,乙原は同年9月28日に同女と協議離婚した。(乙19,25)

イ 乙原は,平成11年5月21日に上記アの女性とは別のタイ国籍を有する女性(1964年(昭和39年)生)の子(1992年(平成4年)生)を認知し,同年7月2日に上記女性と婚姻した。同女は平成14年7月23日に在留特別許可を受けたが,乙原は平成14年10月9日に子の親権者を母と定めて同女と協議離婚した。(乙19,25)

ウ 原告は,平成15年11月8日,関西国際空港に到着し,大阪入管関西空港支局入国審査官から,同日付けで,ビザを「興行」,在留期間を6月とする上陸許可(本件上陸許可処分)を受け,本邦に上陸した。

エ 原告は,平成15年12月9日,大阪市西区長から外国人登録証明書の交付を受けた。なお,原告は,同日,同証明書の居住地を,同月1日に移転したことを理由に「大阪市西区南堀江3丁目*番**-****」から「大阪市西区本田3丁目*番**-***号」に変更した。(乙8)

オ(ア) 原告と乙原は,平成16年4月12日,日本国の方式に従い婚姻の届出をした。

(イ) 原告は,平成16年4月12日,外国人登録証明書の居住地を,同年2月1日に移転したことを理由に「大阪市西区本田3丁目*番**-***号」から「大阪市中央区島町1丁目*番*-***号」に変更し,さらに,同証明書の世帯主を「甲野花子」から「乙原太郎」,同証明書の世帯主との続柄を「本人」から「妻」に変更した。(乙8)

力 原告は,平成16年4月22日,外国人登録証明書の居住地を,同年4月18日に移転したことを理由に「大阪市中央区島町1丁目*番*-***号」から「大阪市中央区上町1丁目*番*-****号」に変更し,さらに,同証明書の氏名を「甲野花子」から「通称名「乙原春子」」に変更した。(乙8)

キ(ア) 原告は,平成16年4月26日,大阪入管局長に対し,変更の理由を「結婚」,希望するビザを「日本人の配偶者」などとして,在留資格変更許可申請をした。

(イ) 原告は,平成16年4月26日,外国人登録証明書の居住地を,同年4月25日に移転したことを理由に「大阪市中央区上町1丁目*番*-****号」から「大阪市中央区日本橋2丁目*番*-***号」に変更し,さらに,同証明書の世帯主を「乙原太郎」から「(1)に同じ」(原告のこと),同証明書の世帯主との続柄を「妻」から「本人」に変更した。(乙8)

ク 大阪入管入国審査官は,平成16年8月10日,通訳人を介して原告から事情聴取をし,同日付けの原告の供述調書を作成した。同審査官が同調書の内容を原告に読み聞かせたところ,原告は誤りがない旨申し立てて同調書に署名押印をした。同調書には,自分は日本に来てから1か月くらいは西区南堀江で生活し,その後の2か月間は西区本田に住み,その後は大阪市中央区日本橋に移るまで島町と本田を行き来していた,南堀江と本田では丙山一夫とその妻丁川葉子と3人で生活していた,島町は乙原の住所であり週に1回か2回行っていた,上町には住んだことはないが乙原に会いに行って泊まったことがある,日本橋には平成16年4月から住んでいる,島町と上町と日本橋では乙原と2人で生活している,などと記載されている。(乙5)

ケ(ア) 大阪入管入国審査官は,平成16年9月17日付けで,原告が入管法7条1項2号に規定された上陸の条件に適合していなかったことが判明したことを理由として,被告入国審査官に代わり,本件上陸許可処分を上陸日に遡って取り消す旨の処分(本件上陸許可取消処分)をし,同日,同処分を原告に通知した。

(イ) 大阪入管局長は,平成16年9月17日,上記キ(ア)の在留資格変更許可の審査を終止した。

コ(ア) 大阪入管入国警備官は,平成16年9月17日,大阪入管において,入管法24条2号該当の容疑で,通訳人を介し原告を取り調べ,同日付けの原告の供述調書を作成した。同警備官が同調書の内容を原告に読み聞かせたところ,原告は誤りがない旨申し立てたものの,同調書への署名指印を拒否した。同調書には,自分は乙原のことを乙原と結婚する前は「*****」と呼んでおり現在は「○○ちゃん」とか「***」などと呼んでいる,自分の通称名である「春子」は乙原が考えてくれたがなぜこの名前にしたのかは分からない,乙原は自分のことを「●●ちゃん」と呼んでいる,自分が乙原と知り合ったのは平成15年のクリスマスでいとこの丙山が自宅に乙原を招いたときであった,当時自分は現在ほど日本語を話すことができなかったが聞き取ることはできた,乙原と会った時おもしろい人だと思った,どちらからというわけではないのだが自然な流れで交際するようになり,2004年の1月中ごろに乙原が当時1人で住んでいた地下鉄玉造駅の近くにある10階建て前後のワンルームマンションに泊まりに行くようになった,このマンションが大阪市中央区島町にあったことは覚えているが乙原が何号室に住んでいたかは覚えていない,自分は乙原と交際しているときから「いつ私と結婚するの。」と冗談で話しており,お互いに改まってプロポーズをしたという意識はないが結婚する話がまとまり2004年4月26日か28日に婚姻届を提出した,婚姻届の証人には丙山夫婦が引き受けてくれた,婚姻届を提出後4月下旬から大阪市中央区日本橋のマンションで乙原と2人で生活していた,このマンションは乙原が1人で探した後自分にここはどうかと尋ねてきた,自分もこのマンションが気に入ったので乙原が契約した,自分は来日してから無職であり,丙山の家に滞在していたときは丙山が,乙原と生活するようになってからは乙原が面倒をみてくれている,乙原は「××」という名前の会社の社員であり,朝は8時から11時の間に家を出,帰宅は早ければ17時半から18時ころで遅ければ翌日の午前一時か2時ころである,乙原の休みの日は2人でプールに行ったりボーリングに行ったり友人と一緒に食事に出かけたりする,乙原は毎月生活費として10万円から15万円を渡してくれる,毎月の支出は主に金額の多いものを乙原が払い自分は安いガス代や水道代や食費を払う,その残りが自分の小遣いになるのでそれで洋服や化粧品を買う,ただ乙原が買ってくれることもある,誰が何を払うというのは特に決めていない,光熱費は主に乙原がコンビニエンスストアーで支払う,自分が払うときは自宅の近くにある「珈琲館」という喫茶店の隣にあるコンビニエンスストアーを利用する,家事はすべて自分がこなす,昨夜は自分はカボチャのお焼きを作って食べたが乙原は会社の人と飲んできたので家では少ししか食べていない,乙原は午前一時か2時ころに帰宅したと思う,今朝は自分も乙原も8時ころに起床し自分は何もとらず夫は牛乳だけを飲みタクシーで出頭した,自分が住む家は昼間は誰でも入れるが夜になると暗証番号を入力しないと中に入れない,原告にも乙原にも借金はない,などと記載されいている。(乙16)

(イ) 大阪入管入国警備官は,平成16年9月17日,大阪入管において,乙原を取り調べ,同日付けの乙原の供述調書を作成した。同警備官が同調書の内容を乙原に読み聞かせたところ,乙原は誤りがない旨申し立てて同調書に署名指印した。同調書には,原告と出会ったのは丙山から紹介されたからである,原告と初めて出会ったのは2003年12月下旬ころ大阪市中央区宗右衛門町にある食べ物屋でのことである,その後原告との付合いが続き2004年3月ころからは当時自分が住んでいた大阪市中央区上町の家に原告が引っ越してくるというかたちで同居し始めた,原告は自分と同居する前は大阪市西区にある丙山の家で丙山夫婦と3人で暮らしていた,同居を始めた上町のマンションはワンルームマンションであったためもっと広いところに移ろうということになり,2004年の3月か4月ころに大阪市中央区日本橋に原告とともに引っ越した,同年の4月12日に原告との婚姻届を提出した,ただ,中国の領事館などには婚姻届を提出していないが,それはそういうことを知らなかったからである,原告は来日してからずっと無職でありアルバイトもしていない,自分は××という会社に勤め月に手取りで30万円前後の給料をもらっている,その中から食費などの生活費として毎月10万円ないし15万円を原告に手渡している,自分は昔借りた借金が700万円ないし800万円ほどあるがこれらはサラ金やクレジット会社からのものである,日本橋の家の契約は前に住んでいた庚町正二の名義のままになっているので同人に家賃を支払っている,電気代やガス代は自分が近所のコンビニエンスストアーなどで支払っているが自分が使用している携帯電話は庚町の契約になっているので同人にその料金を支払っている,自分の勤務先は基本的に日曜日と祝日が休みである,平日は朝8時から9時くらいの間に起床し朝食をとらずに9時30分ころに家を出る,10時から18時までが勤務時間である,週に2,3日は会社の人たちと飲みに行くがそのときは帰宅が午前0時前であったり翌日の午前一時や2時になることもある,そうでない日は午後6時30分くらいに帰宅して原告の作った夕食を食べ午前0時から一時ころに就寝する,原告は自分が仕事をしている間は家で家事をしているが丙山の妻が出産したころは昼間は丙山の自宅に手伝いに行っていた,自分の仕事が休みの日は外出することが多く外出先としては大阪城や神戸の三宮であり一度だけ山口県と広島県に原告と庚町の家族と行ったことがある,先週の日曜日は原告とプールに行きその夜は庚町の家族と食事をし,昨日は普段どおりに出勤したが仕事上の付合いで飲みに行ったので帰宅したのは午前3時ころだった,今日は朝8時30分ころに原告とともに起床して朝食の目玉焼きと牛乳を飲食し,9時ころ家を出てタクシーで出頭した,などと記載されている。(乙17)

サ 大阪入管入国警備官は,平成16年9月17日,原告に対する入管法24条2号(不法上陸)の容疑で大阪入管主任審査官から収容令書の発付を受け,同日,大阪入管において,これを執行して原告を収容し,同日,原告を大阪入管入国審査官に引き渡した。

シ(ア) 大阪入管入国審査官は,平成16年9月28日,大阪入管において,通訳人を介して原告が入管法24条各号の一に該当するかどうかを審査し,同日付けの原告の供述調書(審査調書)を作成した。同審査官が同調書の内容を原告に読み聞かせたところ,原告は誤りがない旨申し立てて同調書に署名指印をした。同調書には,自分は日本に来てから丙山一夫の自宅で生活していた,自分と乙原は丙山一夫の紹介により2003年12月のクリスマスに丙山一夫の自宅で知り合い,その後の2004年1月末ころ当時乙原が1人で暮らしていた大阪市中央区玉造にあるワンルームマンションに泊まりに行くようになった,ちょうどそのころ自分と乙原は肉体関係を持った,自分と乙原は2004年4月20日から28日までの間に婚姻届を提出し,その後の4月下旬に乙原は前居住地から自分は丙山一夫の自宅から大阪市中央区日本橋に引っ越して同居した,自分は毎月生活費として現金10万円から15万円を乙原から受け取っている,乙原には借金はないと思う,などと記載されている。(乙7)

(イ) 大阪入管入国審査官は,平成16年9月28日,上記(ア)の審査の結果,原告は同条2号(不法上陸)に該当すると認定し(本件認定),同日,原告にその旨を通知したところ,原告は,同日,口頭審理の請求をした。

ス(ア) 大阪入管特別審理官は,平成16年10月7日,大阪入管において,乙原を立会人として,通訳人を介して原告に対する口頭審理を行い,同日付けの原告の供述調書(口頭審理調書)を作成した。同審理官が同調書の内容を原告及び乙原に読み聞かせたところ,原告は誤りがない旨申し立てて同調書に署名指印をし,乙原も誤りがない旨申し立てて同調書に署名押印をした。同調書には,自分と乙原が初めて出会ったのは平成15年のクリスマスで丙山一夫が大阪市西区本日,にある自宅に乙原を招いたときだった,乙原が丙山一夫の家に来たとき自分は丙山一夫の家にいた,その日はクリスマスだったがケーキは買いに行かなかった,自分と丙山一夫の2人で中華料理を作った,乙原が来たのは午後3時から5時ころだった,自分は丙山一夫から「この人が乙原さんです。」と言われて乙原を紹介された,その日は自分と乙原と丙山一夫と丙山一夫の妻丁川葉子の4人で自分と丙山一夫が作った中華料理を食べた,乙原が丙山一夫の自宅に来てから1時間か2時間経ったころに乙原と丙山一夫と丁川葉子の3人はご飯を食べにどこかへ外出したが,自分は行かずに1人で留守番をして後片付けや食器洗いをしていた,自分は当時日本語を話すことができなかったが少しだけ日本語を聞き取ることはできた,乙原と初めて会ったときの第一印象は特に何とも思わなかった,その日は自分は乙原とは簡単な単語をいくつか話しただけである,その日にお互いに電話番号を交換しどちらからというわけではないのだが自然な流れで交際するようになった,2004年1月ころから乙原が当時1人で住んでいた玉造の家に泊まりに行くようになりそのころ自分と乙原は肉体関係を持った,丙山一夫の自宅と大阪市中央区島町にある乙原の家を行き来するようになった,乙原と正式に同居を始めて自分の荷物や衣類を運んだのは自分と乙原が婚姻届を出した後のことである,自分が乙原の家に初めて泊まりに行って乙原と肉体関係を持ってから乙原と結婚するまでの期間は3か月間だった,自分と乙原は2004年(平成16年)4月に2人で大阪市中央区役所に行き婚姻届を提出した,その際中国領事館で証明してもらった自分の独身証明も提出した,独身証明をもらいに行ったのは自分と丁川葉子である,婚姻届を提出後の2004年4月下旬から大阪市中央区日本橋のマンションにおいて乙原と同居を始めた,これ以外で自分が日本に住んでいたところはない,自分が乙原を紹介されたとき乙原は中国語を話せなかった,そのとき自分は日本語をほとんど話すことはできなかった,自分は現在日本語を少し話すことができる,自分は平成16年5月から8月まで日本橋の家から自転車で5分ほどの距離にある大阪国際日本語学校日本橋教室に通っていた,学校の授業料(月額2万円くらい)は乙原からもらう生活費で工面することもあれば乙原から授業料をもらうこともあった,自分は少しだけ日本語を話すことができたことやお互いの感覚により自分と乙原はお互いに結婚したいという気持ちを理解した,自分は乙原のことが好きで乙原も自分のことが好きだから出会ってから短期間で結婚した,自己の外国人登録上の居住地の変更手続は自分と乙原が一緒に行って行った,その居住地の変更はすべて乙原の指示に従った,乙原には借金はない,などと記載されている。(乙8)

(イ) 大阪入管入国審査官は,平成16年10月7日,大阪入管において,乙原を取り調べ,同日付けの乙原の供述調書を作成した。同審査官が同調書の内容を乙原に読み聞かせたところ,乙原は誤りがない旨申し立てて同調書に署名押印をした。同調書には,丙山から原告を紹介された,自分は平成15年の12月ころの夕方に丙山と心斎橋の大丸デパートの近くで待ち合わせをした,自分が待っていると丙山と原告が丙山の運転する車で現れ自分もその車に乗車し道頓堀にある羊の肉を食べさせてくれる飲食店に3人で行った,その店で原告と自分は互いに自己紹介をしこのときに原告と初めて出会った,その日はずっとその店で食事をし他の飲食店には行かなかったと思う,自分が何時ころ帰ったのか,どのように帰ったのか,勘定は誰が払ったのかなどのことは覚えていない,当時自分は大阪市中央区上町に1人で住んでいた,自分が原告を紹介されたとき原告は片言の日本語を話しており自分は中国語を話すことはできなかった,現在も日本語以外に話すことはできない,原告は平成16年5月ころから中央区島之内にある日本語学校(名前は分からない。)に通っている,その学校の授業料は月払い(金額ははっきりとは覚えてはいないが1万円少しだったと思う。)で自分が原告に払っている月々の生活費から原告が工面することもあれば自分が授業料を原告に渡すこともある,自分は原告と知り合ってからどちらからというわけではないのだが自然な流れで交際するようになった,平成16年3月か4月ころ原告は自分が1人で住んでいた家に泊まりにくるようになりその後丙山の自宅と自分の家を行き来するようになった,原告が自分の家に泊まりに来るようになったのは平成16年3月か4月ころであり同年1月や2月のことではない,原告と正式に同居を始め原告が自分の家に荷物や衣類を運んだのは自分と原告が婚姻届を出した後である,それまでは原告は荷物や衣類等を大阪市西区本田にある丙山の自宅に置いていた,自分と原告は2004年4月12日に婚姻届を提出したがそれと一緒に提出した書類は何かの証明書を提出したと思うが具体的には覚えていない,自分が原告に初めて会った2003年12月終わりころ自分は大阪市中央区上町に住んでいた,その後2004年2月か3月に大阪市中央区日本橋の部屋を借りる契約をしたが上町の賃貸借契約は解除しなかったので日本橋と上町の2か所を借りていた,上町の契約を解除したのは2004年4月末か5月末ころのことである,自分が2つの部屋を借りていたのは仕事の関係で玉造によく行き来をしていたからである,自分の現在の住民票上の住所と実際の住所が違うのは借金700万円から800万円の取立てから逃れるためである,自分に借金ができた理由は前妻の借金を肩代わりしたためである,自分が現在住んでいる住所は借家であるがその契約は自分の前に住んでいた庚町正二の名義のままになっているので家賃は庚町に渡している,携帯電話は自分は借金の関係で使用することができないので庚町の契約になっており同人にその使用料を支払っている,庚町は自分が働いている会社の代表取締役である,現在住んでいる自分の住所の契約の名義を自分に変更しないのは変更にお金がかかるからである,などと記載されている。(乙18)

(ウ) 大阪入管特別審理官は,平成16年10月7日,上記(ア),(イ)の口頭審理の結果,原告が入管法24条2号(不法上陸)に該当する旨の認定に誤りはないと判定し(本件判定),同日,原告にその旨を通知した。

セ 原告は,平成16年10月7日,法務大臣に対し,入管法49条1項の異議の申出をした。原告は,その申出の際,自分は乙原と自由恋愛を経て結婚した,結婚した後お互いに愛し合っている,乙原の母や妹達は自分と乙原が一緒に生活することや子供を産み育ててほしいと思っている,自分と乙原も早く子供ができることを望んでおり平成16年5月くらいに一度病院に検査に行ったことがあるが結果は駄目だった,最近も妊娠の兆候が出ているが確定はできない,自分と乙原の生活が甘いことは自分達を知っている人なら誰でも知っている,乙原は家事ができないので家事は自分が外のことは乙原がしている,休日は広島県や山口県や乙原の故郷である九州などにも行った,自分がビザをもらうことができればハワイに新婚旅行に行く,今度自分が上海に帰るときには乙原や乙原の母親を一緒に連れて行く,もし自分と乙原とが離れ離れになると乙原の面倒をみる人がおらず乙原の母親が失望する,などと記載した不服申立書を提出した。(乙9)

ソ 法務大臣の権限の委任を受けた被告入管局長は,平成16年10月14日付けで,原告の異議の申出については理由がない旨の裁決(本件裁決)をし,同日,同裁決を被告主任審査官に通知した。タ 被告主任審査官は,平成16年10月14日,原告に本件裁決を通知するとともに,同日付けで,原告に対し,送還先を中国とする退去強制令書の発付処分(本件退令発付処分)をした。大阪入管入国警備官は,同日,大阪入管において,上記退去強制令書を執行し,原告を大阪人管収容場に収容し,同年11月18日,原告を大阪入管収容場から入国者収容所西日本入国管理センターに移送した。

チ 原告は,平成16年11月15日,当裁判所に対し,本件上陸許可取消処分及び本件退令発付処分の各取消しを求める本件訴えを提起した。

ツ 乙原は,本件訴訟の証人尋問において,自分は平成15年12月に原告と知り合い1目ぼれした,自分は原告と意思疎通をする際中国語で「愛してます。」とか「こんにちは。」とかといったことくらいは言うが中国語で会話はできなかった,自分が原告と話すときは片言の日本語で話し身振り手振りで意思疎通を図っていた,自分は原告と初めて会ったときに電話番号を聞いたのでその後電話で連絡を取った,電話では自分が日本語で次に会う場所を説明しそれで原告は理解した,原告が足が痛いというので自分は平成15年12月27日に原告を整骨院に連れて行った,その後原告は広島に行くと言っていたが自分は大阪にいてほしいと伝えた,自分と原告とが初めて行ったデートの場所は海遊館であるがそれがいつのことかは覚えていない,自分と原告とのデートは2人きりでしており他の人が一緒にいたことはない,平成16年1月に原告と関係ができた,それ以降原告は自分のマンションに回数は分からないが何回か泊まりにくるようになった,自分が原告に夫婦になろうというプロポーズをしたのは同年3月ころである,しかしプロポーズをどこでしたのかとか言葉としてどのようなことを言ったのかということは忘れた,平成16年3月か4月に原告が自分の家に入り浸るようになった,自分が原告と同居するようになったのは婚姻届を出した後だと思う,自分は大阪市中央区島町のマンションに出入りしていたことはなかったから原告が島町のマンションに泊まったことはない,自分は原告と知り合った後原告の両親に贈り物をしたり送金をしたことがある,自分は原告と籍を入れる直前に原告に「春子」という名前をつけた,原告と婚姻したことは中国の領事館には申し出ていない,丙山一夫は自分と原告の結婚のお祝いを家でしてくれた,その席には丙山一夫の妻と丙山一夫の妹がいたが丙山一夫から贈り物をもらったかどうかは忘れた,原告は平成16年5月か6月ころから日本語学校に行くようになったがその学費は自分が出していた,自分は原告に対して生活費として月10万円から15万円を渡していたがそれとは別に日本語学校の学費も出していた,自分は原告を北九州にある自分の実家に連れていったことがあり,また原告と山口県に旅行に行ったことがある,自分は原告と一緒に平成16年6月10日に産婦人科に行ったが妊娠していなかった,自分は現在でも一切中国語を話すことはできない,自分は現在でもよく原告に面会に行っている,などと証言した。(証人乙原)

テ 原告は,本件訴訟の本人尋問において,乙原と初めて会った平成15年12月のクリスマスは丙山の自宅で乙原と会ったのではなく,乙原と心斎橋で待ち合わせをし中華料理の羊肉店に行った,その席には丙山一夫,乙原及び自分がいた,その当時乙原は中国語は一切話せなかったが自分は日本語が少しできるし筆談をして意思疎通を図ることができた,乙原と初めて会った後は電話で乙原と次のデートのアポイントを取っていた,自分は足が痛かったので平成15年12月27日に乙原に整骨院に連れて行ってもらったが良くなっているとのことで何も治療はされなかった,そのため自分は広島に行くつもりであったが乙原から大阪にいてほしいと言われため結局広島には行かなかった,平成16年1月に乙原と初めてデートをした,乙原との初めてのデートは自分の家に乙原が来てしたのだが外の場所には行かなかった,乙原との電話では簡単な会話しかできなかった,デートの待ち合わせ場所は乙原が決めていたが乙原が迎えに来てくれたこともあった,平成16年1月ころに乙原と関係ができた,その後乙原のところへ泊まりに行くようになり徐々にその回数が増えるようになった,同年3月ころから乙原の家に頻繁に泊まりに行くようになった,自分と乙原とが日本橋の家に住む前に泊まりに行っていた乙原の家は玉造のマンションと島町のマンションの2か所であった,頻繁に行っていたのは多分玉造のマンションの方だと思うが乙原の部屋が何階にあったのかは覚えていない,頻繁というのは週に1回ないし3回程度のことである,島町のマンションの方には1回しか行ったことがない,自分と乙原とが結婚する意思をお互いに確認し合ったのは平成16年2月か3月ころであるが具体的なプロポーズの言葉は乙原から1回だけではなく何回も「結婚したい。」などと言われていたから記憶にない,日本橋の部屋は庚町の名義で借りていた,庚町は乙原の会社の社長であり日本橋のマンションの4階に住んでいたのでいつも会っていた,乙原と結婚する前にそのことを中国にいる両親に電話で伝えたら喜んでくれた,乙原との婚姻届を出すのに日本名を付ける必要があったため乙原に「春子」という名前を付けてもらったと思う,その名前は乙原がたくさん考えた名前の中から乙原と話をして選んだ,乙原は生活費として月に10万円から15万円を渡してくれていた,自分はその中から食費と水道代や電気代などの安い料金を払っていたが5000円以上の料金は乙原が払っていた,乙原と婚姻した後の2004年5月から8月まで日本語学校(大阪国際語言学校日本橋教室)に行っていた,その学校の授業料はテキスト等を含めて月2万円以下であり乙原がくれる生活費の中から払うこともあったし乙原から授業料としてお金をもらって払ったこともあった,乙原は自分の両親に仕送りをしてくれている,乙原と結婚した後に九州にある乙原の実家に行ったり広島や山口に行ったことがある,平成16年6月10日に2か月ほど生理が来ていなかったので乙原と一緒に産婦人科に行ったが妊娠していなかった,平成16年9月17日に収容されてから日本語を勉強したり,本を読んだり,同じく収容中の外国人と日本語の練習をしている,自分が収容されてから乙原は毎日面会に来てくれ収用場所が入国管理センターになってからは1,2週間に1回は面会に来てくれている,などと供述した。(原告本人)

(4) 前記前提となる事実,前記1において認定した事実及び上記で認定した事実等に基づき,被告入管局長が原告の在留を特別に許可しなかったことにつき裁量権の逸脱又はその濫用があったか否かについて,以下検討する。

ア 前記1において説示したとおり,原告は,中国のプロダクションを通じて,ビザを興行とするビザ認定証明書(本件認定証明書)の交付を受けたことを奇貨として,本件上陸申請に係る本邦において行おうとする活動であるΔ△コーポレーションに招へいされて口□において舞踊家(ソロダンサー)として出演する意思を有していないにもかかわらず,本邦への上陸を果たしたものである。のみならず,前記認定事実によれば,原告がビザ認定証明書の交付を申請する際に提出した本件履歴書,本件在職証明書及び本件出演証明書は,いずれも「興行」のビザの認定,ひいては,上陸のための条件の適法性の判断に当たり,我が国の産業及び国民生活に与える影響等の観点から設けられた申請者の能力,資質に関する基準についての判断を誤らせるものであり,原告の本邦への不法上陸の態様は,これらの点のみからしても,我が国の外国人に対する出入国の公正な管理を著しく損なうものと評価されてもやむを得ないものである。

イ また,前記認定事実等によれば,原告と乙原との婚姻関係は,少なくとも在留資格変更許可申請をした時点(前記(3)キ(ア))においては,その実態を欠くものであったとの合理的な疑いが残るものといわざるを得ない。

すなわち,原告と乙原は,いずれも,平成15年12月末ころに初めて出会った,そのころ乙原は中国語を話すことができず原告も日本語を聞き取ることができる程度しかできなかった,その後電話でデートの約束をした,平成16年1月ころに初めてデートをしそのころ関係を持った,その後乙原の家に原告が泊まりに行くようになりその回数が増え,同年3月ころに互いに結婚の意思を確認し,同年4月に婚姻届を提出してそのころ同居を開始した,などと一致して供述しているが,そもそも,このような推移自体が,相互の意思疎通能力等に照らしていささか不自然な感じが拭えず,この点に関する両名の上記供述を直ちに採用することにはちゅうちょせざるを得ない。

のみならず,乙原と原告の各供述のうち本件訴え提起以前にされたものについては,乙原と原告が初めて出会った場所や原告が頻繁に泊まりに行っていた乙原のマンションの場所といった,真実経験していた者であれば通常は記憶違いをすることがないと思われるような基本的な事柄(しかも,本件における原告と乙原は,初めて出会ったとされる日から1年も経たないうちに最初の供述をしているのであるから,その記憶は比較的鮮明なものと推認される。)についての供述内容に大きなそごがあり,本件訴訟における供述をも含めると,初めてのデートの場所,原告に対するプロポーズの経緯や言葉などといった事柄についてまで,供述内容に食い違いがみられ,しかも,原告は,本件訴訟の本人尋問において,乙原と原告が初めて出会った場所及びその時の様子について,それ以前の供述を変遷させ乙原及び丙山一夫の供述に符合する内容の供述をするに至っている。これらの点からしても,原告及び乙原の婚姻関係の形成に至る経緯についての両名の供述は直ちに採用し難いものといわざるを得ない。

以上に加えて,原告が,本邦上陸後,極めて短期間のうちにそれまで全く面識のなかった日本人と婚姻関係を形成した上,婚姻届のわずか2週間後で,しかも,本件上陸許可処分に係る在留期限(平成16年5月7日)の直前に,希望するビザを「日本人の配偶者等」とする在留資格変更許可申請をするに至っていること,乙原は,過去に2回にわたり外国人と婚姻の届け出をしながら,妻が在留特別許可を得た2か月ないし3か月後に協議離婚をしており(前記(3)ア,イ),乙原の供述によれば,2回とも離婚原因は妻が賭博で借金を作ったことにあるとされていること(なお,原告は乙原に借金はない旨一貫して供述しており,この点について原告と乙原との供述内容にそごがみられることは前記認定のとおりである。)等をも併せ考えれば,甲11ないし甲13及び甲19の手紙等の内容や甲14の1ないし5の写真の存在,さらには甲20の1,2により認められる原告の産婦人科受診の事実等をしんしゃくしてもなお,原告と乙原との婚姻関係が上記在留資格変更許可申請当時その実態を伴うものであったとは直ちに認め難いのであって,原告と乙原との婚姻関係は,原告に日本人の配偶者等のビザを取得させることを専らその目的として作出されたものであったとの合理的疑いが残るものといわざるを得ない

ウ しかるところ,原告が本邦に入国した目的(の少なくとも一つ)が本邦において就労することにあったことは,原告自身の認めるところであるから,前記認定に係る原告の本邦への不法上陸の経緯及び態様にも照らすと,原告と乙原との婚姻関係の形成及びこれを前提とする日本人の配偶者等への在留資格変更許可も,本邦において就労することにその主たる目的が存したのではないかと合理的に疑われるのであって,このような原告の本邦入国後の行状は,本邦への不法上陸の経緯及び態様と相まって,我が国の外国人に対する出入国の公正な管理を著しく阻害し,国内の治安及び労働市場の安定などの国益を損なうものと評価されてもやむを得ないものというべきである。

エ 以上に加えて,原告は中国で出生し27歳で来日するまで中国で生活してきた者であり,原告が中国に帰国しても原告又は乙原が経済上又は健康上重大かつ深刻な不利益を被るような具体的事情は証拠上うかがわれず,原告の両親が中国において生活していることなどの事情をも併せ考えれば,原告がビザ認定証明書の交付申請(本件交付申請)に当たって提出された履歴書等の内容虚偽の書類の作成に関与するなど,同証明書の不正取得の手続に積極的に関与した様子は証拠上うかがわれず,また,原告が本邦において報酬を受ける活動等に従事したことをうかがわせるに足りる的確な証拠もないなどの事情を考慮してもなお,原告の在留を特別に許可せずに異議の申出を棄却した被告入管局長の判断が,全く事実の基礎を欠き,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるということはできず,本件裁決における被告入管局長の判断に裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできないものというべきである。

(5) 原告の主張について

ア 原告は,外国人に対していったん上陸許可処分がされた場合には,その後入国管理局の判断で自由に出国を強要することはできないから,異議の申出に対する裁決に係る判断が行政庁の自由裁量にゆだねられていると解することはできないなどと主張する。

しかしながら,前記(2)で説示したとおり,当該外国人の在留を特別に許可するか否かの判断における法務大臣(法務大臣の権限の委任を受けた地方入国管理局長を含む。)の裁量権の範囲は広範なものであると解すべきであり,その裁量権の性質にかんがみると,当該外国人の在留を特別に許可しないとの法務大臣の判断は,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等によりその判断が全く事実の基礎を欠き,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるものというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。

イ 原告は,乙原の親族から原告代理人にあてた手紙(甲11ないし13)の記載からすれば,原告と乙原とは真実婚姻しており,原告は乙原の親族と良好な関係を保っていたことは明らかであるなどと主張するが,前記(4)イで説示したとおり,これらの手紙の内容等をしんしゃくしてもなお,原告と乙原との婚姻関係がその実態を欠くものであったとの合理的な疑いが残るものといわざるを得ないのであるから,原告の上記主張を直ちに採用することはできない。

ウ 原告は,夫婦間や恋愛中の男女においても,婚姻前の最初のデートを誘ったのはどちらか,そのデートの場所がどこであるか,最初に一緒に食べた食事は何であったか,宿泊した場所はどこであったか,などといったことについて記憶を異にすることはよくあることであるし,また,愛し合った男女の間では,片言の単語と身振り手振りで十分気持ちは通じ合うものであり,原告は片言程度であれば日本語を理解することができたのであるから,原告と乙原との間の婚姻関係が実態を伴わないものであるということはできないなどと主張する。

しかしながら,前記(4)イで説示したとおり,原告及び乙原の供述する婚姻関係の形成に至る経過は,両者の意思疎通能力等に照らしてそれ自体いささか不自然である上,真実経験していたものであれば通常は記憶違いをすることがないと思われるような基本的な事柄についての両者の供述内容のそごが複数みられ,しかも,原告は,本件訴訟においてそごがなくなるようその供述内容の一部を変遷させているのであって,これらの点を総合考慮すれば,原告と乙原との婚姻関係はその実態を欠くものであったとの合理的な疑いが残るものといわざるを得ないから,原告の上記主張は採用することができないというべきである。

エ 原告は,乙原の1回目の婚姻関係も2回目の婚姻関係も相当長期間にわたる真実のものであるというべきであり,現在の日本社会において,離婚をすることは決して不自然なものではないことなどからすれば,乙原の婚姻歴から原告と乙原との間の婚姻関係がその実態を欠くものであるということはできないなどと主張する。

しかしながら,前記認定のような乙原の2回にわたる婚姻及び離婚の経緯はそれ自体不自然というほかないのであって,以上認定説示したその他の事情と併せ考えれば,原告と乙原との婚姻関係はその実態を欠くものであったとの合理的な疑いが残るものといわざるを得ない。したがって,原告の上記主張も採用することができないというべきである。

(6) 以上検討したところによれば,原告の在留を特別に許可しなかった本件裁決に裁量権の範囲を超え又はその濫用があったとの違法はないものというべきであるから,原告の在留を特別に許可しなかったことを理由に本件裁決の取消しを求める原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由がない。

 4 争点(4)(本件退令発付処分の適法性)について

前記第2の1(2)のとおり,主任審査官は,法務大臣から異議の申出が理由がないと裁決した旨の通知を受けたときは,すみやかに当該容疑者に対し,その旨を知らせるとともに,退去強制令書を発付しなければならない(入管法49条5項)のであり,入管法第5章の規定する退去強制の手続等に照らしても,主任審査官には退去強制令書を発付するか否かについての裁量の余地はないものというべきである。そうすると,前記2及び3において説示したとおり,本件裁決が違法であるとは認められない以上,被告主任審査官がした本件退令発付処分も違法であるとは認められない。

したがって,その余の点につき判断するまでもなく,本件退令発付処分の取消しを求める原告の請求は理由がない。

第4 結論

以上のとおり,原告の本件上陸許可取消処分の取消しを求める請求,本件裁決の取消しを求める請求及び本件退令発付処分の取消しを求める請求は,いずれも理由がないから,これを棄却すべきである。

よって,主文のとおり判決する。

裁判長裁判官 西川知一郎
裁判官 和久一彦
裁判官 田中健治は,転補のため署名押印することができない.