判例集2019.02.14
裁決取消等請求各事件
判例集2019.02.14
名古屋地方裁判所 平成17年8月31日判決
1 事案の概要
本件は,外国人夫婦とその子である原告が,平成16年8月6日付けで,法務大臣から権限の委任を受けた本件各事件被告名古屋入国管理局長(以下「被告入管局長」という。)によって法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の各裁決(以下「本件各裁決」という。)を受けるとともに,本件各事件被告名古屋入国管理局主任審査官(以下「被告主任審査官」という。)から退去強制令書の各発付処分(以下「本件各発付処分」といい,本件各裁決と併せて「本件各処分」という。)を受けたため,本件各裁決には,被告入管局長が裁量権の範囲を逸脱し又は濫用して在留特別許可を付与しないという違法があり,本件各裁決を前提としてなされた本件各発付処分も違法であると主張して,本件各処分の取消しを求めた抗告訴訟である。
2 本件の争点
本件各処分の違法性の有無。具体的には,
(1)原告らに在留特別許可を付与しなかった本件各裁決は,被告入管局長の裁量権を逸脱,濫用する違法なものか。
(2)退去強制令状発付処分において,原告長男についてはイラン,原告妻についてはコロンビアと異なる国を送還先として指定することが違法か。
3 裁判所の判断
結論)
(1)入管局長の処分に裁量権を逸脱,濫用する違法はない。
(2)退去強制令状発付処分において,母親と長男を別の国に送還することは違法ではない。
理由要旨)
1 在留特別許可の性質と司法審査の在り方について
法50条1項は,法務大臣が法49条1項の異議の申出に理由があるかどうかを裁決するに当たって,当該容疑者について法24条各号に規定する退去強制事由が認められ,異議の申出に理由がないと認める場合でも,当該容疑者が,永住許可を受けているとき(1号),かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき(2号),特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき(3号)には,その者の在留を特別に許可することができると規定しており,法50条3項は,この許可をもって異議の申出が理由がある旨の裁決とみなすと定めている。
法50条1項は,既に法24条各号の規定する退去強制事由が存在すると認定され,本来的には我が国から退去を強制されるべき地位にある外国人に対し,特別に在留を許可できる場合を定めたものであるから,その許可が恩恵的な性質を有することは否定できない。
在留特別許可を付与するか否かに係る法務大臣等の判断が違法となるのは,上記判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した場合に限られるというべきである。
2 原告らに在留特別許可を付与しなかった本件各裁決は,被告入管局長の裁量権を逸脱,濫用する違法なものかについて
(原告のイランにおける宗教事情,女性への差別状況、コロンビアにおける治安状況,経済情勢の悪化、家族の結合についての配慮、日本における長期にわたる平穏な在留についての主張は容れず)原告らに対して在留特別許可を付与しなかった本件各裁決は,その判断が事実の基礎を欠いたとか,社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかとはいえず,したがって,被告入管局長の裁量権を逸脱,濫用するものとはいえないから,違法ということはできない。
3 原告長男についてはイラン,原告妻についてはコロンビアと異なる国を送還先として指定することが違法かについて
原告長男については,イランとコロンビアの二重国籍状態にあると認められるところ,このように複数の送還先候補がある場合にどちらを選択すべきかについて,法53条1項は何ら述べるところがないから,主任審査官は,特段の事情がない限り,どちらを送還先とするかにつき裁量権を有するというべきである。
本件各発付処分によれば,原告妻と原告長男とは別個の国に強制送還されることになるが,原告ら夫婦にその意思がありさえすれば,再会して共同生活を営むことが可能であること,原告夫及び原告妻が,強制退去を前提とした送還先について特段の希望を述べていないこと,以上のような事情を総合すれば,被告主任審査官が,上記のように送還先を決定し,記載したことが裁量権の逸脱・濫用に当たると判断することはできない。
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