その他ブログ2023.06.10
インターネットにおける名誉毀損2
その他ブログ2023.06.10
3つの「名誉」
「名誉」は一般的な語彙ではありますが、法的な文脈では異なる意味を持ちます。主に3つの種類の「名誉」が存在します。
1. 外部的名誉: これは他人から見たあなたの評価を指します。他人があなたをどう見ているか、社会があなたをどう評価しているかということです。
2. 名誉感情: これは自分自身の自己評価、自己認識を指します。自分自身が自分の価値をどう考えているか、自分の自尊心や誇りのことを指します。
3. 内部的名誉: これは他人の目や自分の自己評価から独立した、自身に固有の価値を指します。この価値は他人の意見や自分自身の感情から独立して存在します。
法律的には、「名誉」は外部的名誉が保護されます。すなわち、「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」とされています。これには経済的信用も含まれます。
例えば、本当には犯罪を犯しているのに社会に知られていない人がいるとしましょう。その人が犯罪を犯していないと評価されているなら、その評価も「外部的名誉」に含まれ、保護されるべきというのが原則です。ただし、一定の範囲で真実に基づく言論は正当化されます。このような「虚名」を保護する法制度には異論も存在しますが、それについては後の議論の範囲となります。
刑事上の名誉毀損
刑事上の名誉毀損について、日本の刑法では次のような要素や考慮事項が存在します:
名誉毀損罪の構成要件:日本の刑法230条1項には名誉毀損罪の構成要件が定められており、具体的には、①公然と、②事実を摘示し、③人の名誉を毀損することが要件とされています。
違法性・責任阻却:形式的に上記3要件を満たしても、その行為が公共の利害に関わる事実であり、その目的が専ら公益を図ることである場合、また、事実が真実であることが証明できる場合には、名誉毀損罪とは認定されません。これは表現の自由と名誉の保護との調和を図るための法理です。
告訴:名誉毀損罪は親告罪であり、被害者自身の告訴があって初めて公訴が提起できます。
侮辱罪:刑法231条では、事実を摘示せずに人を公然と侮辱した者を罰する侮辱罪が規定されています。侮辱罪は名誉毀損罪と同様、外部的名誉を保護法益としています。
民事上の名誉毀損
民事上の名誉毀損に関して以下のポイントがあります:
(1)民法709条は、他人の権利や法律上保護される利益を故意または過失によって侵害した場合、損害賠償責任が発生することを定めています。この条文は、名誉毀損も不法行為の一種として問題となることが多いです。
(2)損害賠償請求の要件: 不法行為に基づく損害賠償請求の要件には、原告の権利や法律上保護される利益の侵害、違法性、被告の故意または過失、損害、因果関係が含まれます。名誉毀損も不法行為の一種であるため、これらの要件が適用されます。
(3)損害賠償と名誉回復の効果: 不法行為が成立した場合、対象者は表現者に対して損害賠償請求権を有することになります。また、民法723条により、裁判所は名誉を回復するための適当な措置(典型的には謝罪広告)を命じることもできます。
(4)名誉感情侵害: 名誉毀損とは異なり、単なる侮辱や中傷によって名誉が低下しない場合でも、名誉感情を侵害する行為は不法行為となり得ます。ただし、名誉感情侵害が不法行為となるには、通常の社会通念上受容可能な限度を超える必要があります。
共通点と相違点
民事名誉毀損と刑事名誉毀損の相違点をまとめると以下の通りです。
共通点:
(1)社会的評価の低下を核心とする。
(2)真実性・公共性(公共の利害に関わるか)、公益目的等による抗弁が認められる。
相違点:
(1)意見論評による名誉毀損: 刑事名誉毀損には基本的に適用されないが、民事名誉毀損では不法行為となる。
(2)過失による名誉毀損: 刑事名誉毀損では故意のみが罰せられるが、民事名誉毀損では過失も不法行為となる。
(3)公然性の要件: 刑事名誉毀損では明文上公然性が構成要件となるが、民事名誉毀損では議論がある。
(4)侮辱に関する相違点: 民事では名誉感情侵害の不法行為となり得るが、刑事では基本的には名誉毀損にはならない(ただし侮辱罪の問題は残る)。
(5)抗弁: 真実性や相当性による抗弁が認められ、被告人が主張や意見を根拠に名誉毀損の事実を否定できる。
(6)刑事名誉毀損と侮辱罪は故意犯であるが、民事名誉毀損では過失による名誉毀損も不法行為となります。
これらの相違点を考慮しながら、民事訴訟や刑事訴訟の手続きにおいて名誉毀損の主張が行われます。
真実性や相当性の抗弁が重要な要素となり、被告ないし被告人は自身の発言や行為を正当化するために証拠や主張を提出します。
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